その女、女狐につき。

高殿アカリ

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7.嵐の前の何とやら

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 ユマさんと二人きりになった。



 ユマさんは、ふぅと軽いため息交じりに私の方へ視線を寄越す。



 髪をかき上げるその仕草がとてもセクシーだ。



 じゃ、なくて。



 私は、手と手を組み合わせて、もじもじしながらも、しっかりと言いたいことを告げた。



「あの、私と一花って生徒会に入っているじゃないですか。それで、そこの副会長が山田先輩っていう素敵な先輩でして。……こう、なんというんですかね。一花とその山田先輩がかなり良い雰囲気を出すものですから……。随分前のことですけど、それの証拠のような写真なんかも出てきたりしまして……。えーっと、そんなタイミングで、ですね。黒閻の送り迎えが優先されなくなってしまって……」



「で? それがどんな噂になるんだ?」



 躊躇い交じりで要領を得ない私の言葉に、ユマさんは結論を急がせる。



 だから、私は息を吸って思いっきりぶちかましてやった。



「一花は寵愛姫の座を失って、今は山田先輩と相思相愛だって噂です‼」



「……」



 しばらく、沈黙が私たちを包み込んだ。



 その重苦しい空気を砕いたのはユマさんだった。



「あんたから見て、その二人はどう見える?」



 私は無力な小鹿の如く、ぷるぷると震えながら、声を出した。



「あの、山田先輩や一花から何かを聞いたわけではないので、本当のところは分からないのですが。……二人の間の空気感はとても良いものです。この前も、マイナーなキャラクターの会話で盛り上がったりとかしていて……」



 私は今、ちゃんと悲しそうな顔が出来ているかしら?



 今にも笑ってしまいそうだから、自信がないのよね。



 うん、笑ってしまったときの為に下を向いておこう。
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