その女、女狐につき。

高殿アカリ

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7.嵐の前の何とやら

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 週末、私は一花とユマさんと共に大型のショッピングセンターの中にいた。



 旅行で必要なものを一緒に買いに行かないか、と一花を誘ったからだ。



 本当に来て欲しい人はユマさんだけだったが、ユマさんはあえて誘わなかった。



 誘わなくとも、私と一花が休日にどこかへ出掛ける場合、ユマさんがついてくることは決定されていたからだ。



 また、ユマさんだけを誘ってしまうと、不自然極まりない上に彼女がこれから行われることに勘付く可能性があった。



 それは何としても避けたいことだった。



 だから、確実にユマさんと行動を共にすることが出来、かつユマさんに何の違和感も抱かせない方法を取った。



 ユマさんに警戒されるよりは、一花をあしらう方が遙かに簡単なんだし。



 会って早々、ユマさんは含み笑いをしながらこんなことを言った。



「あれ、二人とも平気そうじゃん」



 一花は頭にはてなマークを乗せている。



 一方、彼女の言いたいことが分かった私は、意味深な笑顔を返すのみ。



 やっぱり侮れないわね、ユマさんは。



 彼女は、黒閻から離された私たちが全く悲しまず、普通にしていることを突っ込んできたのだ。



 それも私たちが平気なことを知っている上で。



 目敏いのか、意地が悪いのか。

 とにかく、一癖も二癖もある人なのだ。



 そんな彼女を騙すのはやっぱり難しそう。



 けれど、だからこそやりがいがあるのだし、やってみる価値もある。



 ただ少しばかり慎重にいかなくてはならないわ。



 目敏くとも、意地が悪くとも、とにかくユマさんは私たちを可愛がってくれた。



 色違いの水着やお揃いのアクセサリーを彼女は何の躊躇いもなく私たちに買い与えてくれたし、見たいと思ったお店に気付いてあちらから店内に入ることを誘ってくれたりもした。
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