その女、女狐につき。

高殿アカリ

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7.嵐の前の何とやら

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「あのね、この前、セイさんとユマさんが倉庫に来ていたでしょう?」



 きらきらとした瞳を私に向ける一花。



「えぇ、そうね。でも、一花その話をここで……」



「でね! そのセイさんとユマさんも旅行に参加するんだって! 何でも私たちが黒閻に戻ってもちゃんとやっていけるかを見極める? みたいな感じなんだって。何でも良いけど、ユマさんとまた会えるんだと思うと私……!!」



 あぁ、そんなことまで。



 全く周りが見えていない一花は気付いていない。



 舌なめずりをした白い毛のハイエナが私たちを狙っていることに。



「ねぇ、一花。そろそろその辺で……」



「天野さん、その黒閻の夏休みの旅行って毎年恒例なんだってね。今年はどこに行くの?」



 ちっくしょう。

 誰も私の話を聞いてくれない。



 そして必ず遮られる。



 特に二人目の方は絶対にわざとよね。



 だってさっきまであんなに私たちの会話を伺っていたわけだし。



 入るタイミングをじっと虎視眈々と狙っていた感じだったもの。



 ……なるほど。

 あえて、あなたは私の言葉を遮ろうとしていたってことで良いかしら?



 だってあなたなら私が言葉を挟む前に、一花を遮って質問を投げかけることは容易かったはずでしょうに。



 しかし、白い毛をしたハイエナに一花は愛想良く答える。



 たぶん、視力が低下しているのよね。

 だってこんなにも大きくて鋭い牙が見えないなんて。



 相当重症よ。

 眼科に行った方が良いわ、一花。



「お盆明けの十七日から二泊三日で軽井沢なんですよ、市川先輩」



 にこっと、ハイエナに向かって綺麗に笑う彼女が腹立たしい。



 おいおいおい。

 それは、もう本当に情報漏洩じゃないのかな、一花さんよ。



 ……もしかしてわざとやってる?



 なんてね。

 そんなことある訳ないか。
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