その女、女狐につき。

高殿アカリ

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7.嵐の前の何とやら

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 市川があまりにも黒閻について質問を重ねるからか、ある日一花が思い出したようにこんなことを言い出した。



「あ、愛美ちゃん。言い忘れてたんだけど……」



 とても申し訳なさそうな顔をしながら、彼女は私の顔色を伺っている。



 私はそのことに全く気が付かない振りをして、無邪気に首を傾げてみせた。



 そんな私の様子に少しだけ安心した様子で、一花は続けた。



「実は、毎年黒閻で夏休みに旅行に行っているらしいんだけど、愛美ちゃんも行く?」



 なるほど、一花は恐らく前から知っていた旅行のことを私に聞き忘れていたのだろう。



 だから、私が仲間外れにされたと言って拗ねないか心配していたのだ。



 全く、そんなことでこの私が拗ねるはずもないのに。



 だって、黒閻の毎年恒例の夏休み旅行ことを知っていないはずがないでしょう?



 ま、そんなことおくびにも出さずに私は優しくふんわりと笑って答えたんだけどね。



「私が行って良いのかな。でも、もし行っても良いのなら、行きたいな」



 一花は首を縦に振る。



 こくこくこく、とそれはもう首がもげるんじゃないかと思うくらいに。



 たぶん、それが一花なりの謝罪だったのだろう。



 その次の日のことだった。

 一花が私に嬉しそうに夏休みの旅行について話してきたのは。



 どうやら昨日のうちに、一花は旅行に私が参加することをフウガに伝えていたらしい。



 その行動の早いこと、早いこと。



 で、今日、フウガたちからの連絡があって、その旨を嬉しそうに話してくるのだ。



 放課後の生徒会室で。



 いやいや。

 ちょいと待ちなさい、一花さん。



 そうは思うも、彼女の口は止まることを知らずにどんどんと言葉を紡ぎ出していく。
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