その女、女狐につき。

高殿アカリ

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6.不穏

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 というか、フウガが押さえてくれていたんじゃなかったの?



 そう思い、フウガの表情を見ると、満更でもない様子で……。

 よく言ったタイシ、みたいな顔してんじゃないわよ。



 馬鹿なの?

 ……そう、馬鹿なのよね。



 あんたたちがそんなだから、ほら言わんこっちゃない。

 赤い髪のお兄さんが今までにないくらい怒っているわよ。



 絶対零度の世界が私たちに襲い掛かる。



 それはもう低く、低く、どすを効かせた声で彼は言った。



「一年前のこと、忘れたのか」



 忘れたとは言わせねぇ、今にもそう言い出しそうな口調だった。



 その言葉に、フウガたちは何も言い返せないようだった。

 一年前、彼らに何があったのかは分からない。



 ただ、あの子が関係していることだけは知っているから。



 儚くて、綺麗で、可愛くて、誰をも虜にしちゃうような、あの子の笑顔が脳裏に蘇るから。



 どうにもこうにもいられなくなって……。



 私は先代の顔面を拝むことにした。



 だって綺麗なんだもの。

 だって格好いいんだもの。

 この中で一番タイプなんだもの。



 私に靡かなさそうだし、強そうだし、王様だし。

 あー、とっっっっても良い男。



 そんな私の思惑に気が付いたのか、はたまたこの空気に私たちは必要ないと思ったのか。



 黒髪の美人な彼女さんが咳ばらいを幾つか。



 その音にみんなが反応して、彼女は笑ってこう続けた。



「あたしたち、下に降りてるわー。後の詳しいことはあんたたちだけで話しな」



 ……最初から私たちの出る幕はなかったけどね。



 そう思いながらも、私と一花を手招きする黒髪のお姉さまに従って、私たちは一階に降りていく。



 あーぁ、もう少しあのお顔を拝んでいたかったな。
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