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5.腹黒愛美、本領発揮。
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温かい橙色の光が漏れる家。
「原田」と書かれた表札の横を通り、私は玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい」
私の言葉に、母が優しく答えてくれる。
「今日の夕飯はハンバーグよ。早く着替えてらっしゃい」
「はーい」
私は自室のある二階へと駆けあがる。
私の家は普通だ。
両親共に健在だし。
家庭内暴力もないし。
特別お金に困っているわけでもない。
反対に裕福すぎて寂しいということもない。
なのに、どうして。
私はこんなにもひん曲がっちゃったんだろうね。
まぁ、理由ははっきりと分かるけど。
憶えていたくもないのに、記憶はなかなか忘れてはくれないみたいだから。
ふんわりと揺れる金色の髪。
屈託のない笑顔。
彼女のことが瞼に浮かび、私は慌ててそれを振り払った。
にしても、私ってマゾなのかもしれないわ。
自分で自分をいじめるなんてね。
とりあえず、うまくいったから良しとしましょう。
一花と私が親友だと疑わなくなったみたいだし。
私のイメージも随分上がったようだし。
それに何より、一番の目的だったケイとタイシに働きかけることもできたわ。
まさか二人きりになれる機会がこうも早く来るとは思わなかったけれど。
いじめの延長も考え始めていたところだったしね。
フウガは後回しよ。
とにかく今は、二人を落とさなくちゃ。
そして、私に落ちた二人を見るフウガを私は見たいの。
絶望に染まる、その顔を見たいのよ。
うふふ、明日からがまた楽しみだわ。
それでも、脳裏にちらつくのは彼女の残像。
私は未だ、過去に捕らわれているまま――。
「原田」と書かれた表札の横を通り、私は玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい」
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「はーい」
私は自室のある二階へと駆けあがる。
私の家は普通だ。
両親共に健在だし。
家庭内暴力もないし。
特別お金に困っているわけでもない。
反対に裕福すぎて寂しいということもない。
なのに、どうして。
私はこんなにもひん曲がっちゃったんだろうね。
まぁ、理由ははっきりと分かるけど。
憶えていたくもないのに、記憶はなかなか忘れてはくれないみたいだから。
ふんわりと揺れる金色の髪。
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にしても、私ってマゾなのかもしれないわ。
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絶望に染まる、その顔を見たいのよ。
うふふ、明日からがまた楽しみだわ。
それでも、脳裏にちらつくのは彼女の残像。
私は未だ、過去に捕らわれているまま――。
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