63 / 163
5.腹黒愛美、本領発揮。
18
しおりを挟むある嵐の日、公園でずぶ濡れになり震えていたその犬を見つけ、自宅に連れ帰った書記さま。
誰にも言わずこっそり自室で世話をしていたが、案の定というかお約束通り家の者に見つかってしまう。
もちろん犬は部屋から追い出され、そのまま大人達が何処かへと連れて行ったきり、二度と会えなかったそうです。
この悲しい出来事がきっかけで、書記さまは一生他の犬を飼わないと心に誓ったのだとか。
まぁ子供には辛い思い出だよね。
でも俺には関係無くない?
と思ったが書記さまいわく、昔大好きだった雑種のノラ犬は俺によく似ていたらしい。
いや待て、それ俺に対して失礼だろ。
「ダメ、離れる……嫌。わんわんと一緒に、いる」
「え? ちょっ、うわッ」
何なのこの人。
イヤイヤ、と頭を振りながら俺の腹にしがみつかないでください。
振動が気持ち良いです。じゃなくて。
中庭のベンチに座らされている俺。
その前で地面に膝をつき、人の腰に腕を回して抱きつく書記さま。
うーん、今この状態で親衛隊の子に見られたら俺どうなるのかなぁ。
というか絶対に制裁されるし。
「あ、あの、本当に止めて。頼むから離れてくださいってば!」
「何……で、せっかく会えた、のに。俺……キライ?」
うわまたしても既に涙目ですか書記さま。
その捨てられたワンコみたいな顔、止めてください。まるで俺が人で無しのように思えてくるじゃないですか。
ハッ!? きゅうぅーんって切ない鳴き声が聞こえてきた。え、幻聴?
ど、どうしてかなぁ。垂れた犬耳と尻尾も見えるぞ。疲れてんのか、俺。
「はぁ」
「……っ!」
あ、しまった。
何気なく溜め息吐いたら、書記さまの身体がビクッと跳ねて不安そうな目がますます潤んじゃってるよ。うわもぉ本当にワンコでも虐めてる気がして嫌だ。
とりあえず怒ってないよ~みたいな感じに、頭を撫でてみたりして。
そ、そおっとね。そおっと……。
うわー髪の毛ふわふわ、柔らかいなぁ。
ん?
俺を見上げてる書記さまが、驚いたように目を見開いた。で、今度は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
ぐはあッ、なななんという威力。
やっぱ美形の微笑み(鼻水無し)は綺麗かつ男前すぎて別格。悔しいがノーマルな俺ですら一瞬どきどきしちゃったもの。そりゃ親衛隊も出来るわけですね、うん納得。
とか言ってたら、おや?
書記さまの身体がプルプルし始めました。
でもって――。
「わんわん、大……好き!」
「ハッ? うわぁあっ、待てちょっ、何でまたしてもーッ!」
急に書記さまの腕に力が入り、ぎゅううううっと締められたら。
結果はもう分かるよね。
焦る書記さまの声を遠くに聞き。
再び意識を失うハメになった俺は、健勝ながら何故か川岸の向こうにいる祖母ちゃんに向かって、手を振ってみせた。
.
誰にも言わずこっそり自室で世話をしていたが、案の定というかお約束通り家の者に見つかってしまう。
もちろん犬は部屋から追い出され、そのまま大人達が何処かへと連れて行ったきり、二度と会えなかったそうです。
この悲しい出来事がきっかけで、書記さまは一生他の犬を飼わないと心に誓ったのだとか。
まぁ子供には辛い思い出だよね。
でも俺には関係無くない?
と思ったが書記さまいわく、昔大好きだった雑種のノラ犬は俺によく似ていたらしい。
いや待て、それ俺に対して失礼だろ。
「ダメ、離れる……嫌。わんわんと一緒に、いる」
「え? ちょっ、うわッ」
何なのこの人。
イヤイヤ、と頭を振りながら俺の腹にしがみつかないでください。
振動が気持ち良いです。じゃなくて。
中庭のベンチに座らされている俺。
その前で地面に膝をつき、人の腰に腕を回して抱きつく書記さま。
うーん、今この状態で親衛隊の子に見られたら俺どうなるのかなぁ。
というか絶対に制裁されるし。
「あ、あの、本当に止めて。頼むから離れてくださいってば!」
「何……で、せっかく会えた、のに。俺……キライ?」
うわまたしても既に涙目ですか書記さま。
その捨てられたワンコみたいな顔、止めてください。まるで俺が人で無しのように思えてくるじゃないですか。
ハッ!? きゅうぅーんって切ない鳴き声が聞こえてきた。え、幻聴?
ど、どうしてかなぁ。垂れた犬耳と尻尾も見えるぞ。疲れてんのか、俺。
「はぁ」
「……っ!」
あ、しまった。
何気なく溜め息吐いたら、書記さまの身体がビクッと跳ねて不安そうな目がますます潤んじゃってるよ。うわもぉ本当にワンコでも虐めてる気がして嫌だ。
とりあえず怒ってないよ~みたいな感じに、頭を撫でてみたりして。
そ、そおっとね。そおっと……。
うわー髪の毛ふわふわ、柔らかいなぁ。
ん?
俺を見上げてる書記さまが、驚いたように目を見開いた。で、今度は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
ぐはあッ、なななんという威力。
やっぱ美形の微笑み(鼻水無し)は綺麗かつ男前すぎて別格。悔しいがノーマルな俺ですら一瞬どきどきしちゃったもの。そりゃ親衛隊も出来るわけですね、うん納得。
とか言ってたら、おや?
書記さまの身体がプルプルし始めました。
でもって――。
「わんわん、大……好き!」
「ハッ? うわぁあっ、待てちょっ、何でまたしてもーッ!」
急に書記さまの腕に力が入り、ぎゅううううっと締められたら。
結果はもう分かるよね。
焦る書記さまの声を遠くに聞き。
再び意識を失うハメになった俺は、健勝ながら何故か川岸の向こうにいる祖母ちゃんに向かって、手を振ってみせた。
.
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる