その女、女狐につき。

高殿アカリ

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5.腹黒愛美、本領発揮。

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 ブランコに座って夜空を見上げる私に近づくタイシ。



 その彼に向かって私は唐突にこう告げた。



「……タイシさん、どうして公園なんかに寄ろうと思ったんですか」



 タイシは無言で私の横のブランコに腰かける。



 暫く待ってみるも、何も言う気配がないのでもう少しだけ追い詰めることにした。



「……ケイさんから聞いたんですか? 私がタイシさんを好きだってこと」



 私の言葉にタイシは息を呑む。

 そういうところ、本当にそっくりな人たち。



 つい数時間前に同じ反応をしたケイを思い返しながら、私は続ける。



「大丈夫ですよ。それ、嘘ですから」



「嘘って……」



「はい、嘘です」



 私は見上げていた視線を下ろし、タイシの方に向ける。



「だって私が好きなのは、ケイさんの方ですから」



「なっ」



「……言えるわけがないんです。あんなに一花のことを想っているケイさんを見ていると。……だから、嘘を吐きました」



「そうやったんか。確かにな、変やなとは思っててん。愛美ちゃん、ぜんぜんそんな感じ出してへんかったし」



「あはは、ばれちゃってましたか。……でも、タイシさんには一花を幸せにしてもらいたいです」



「なんで俺なん? フウガとちゃうんか、そこは」



 悲しそうに自嘲気味に笑うタイシ。



 それに同調するみたいに私も同じような笑顔を見せて、



「フウガさんではダメなんです。……一花を支えるのは」



 私はそれだけを言うと、ブランコから立ち上がった。



「じゃあ、家も近いのでここまでで大丈夫です! 今日は送ってくださってありがとうございました!」



 にこっと笑うと、私は制服の裾を翻して、その場を立ち去った。



「ちょお、待って。一花を支えるってどういうことや?」



 遠くでタイシの声が聞こえてくるけど、私知ーらない。
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