その女、女狐につき。

高殿アカリ

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4.腹黒愛美、本領発揮。の一つ手前

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 事件の次の日、登校するや否や、私は市川に腕を取られ、空き教室へ。



 昨日の放課後、里奈たちと使用した教室だ。



 昨日と全く変わらない埃臭さに、嫌な予感しかしない。



 ……もしかして、昨日の事件の犯人が私だってバレた?



 まさか‼

 まさか、ね。



 ……嘘、よね。

 嘘って言って頂戴。



 私は祈るような気持ちで市川を見つめた。



 そんな私を市川は、何を考えているのか分からない瞳で見返すばかり。



 イケメンと。

 空き教室にて。

 ラブロマンス。



 残念、字余り。



 変な汗まで出てきちゃったんだけど、早く何か言ってよ。



 とは思いつつも、視線を逸らさない私を誰か褒めて欲しい。



 ここで逸らしたら、如何にもやましいことがありますって宣言しているみたいなものよね。



 鎌をかけているだけの可能性もあるし。



 でも、このままじゃ埒が明かないわね。



「……あの、何でしょうか」



「やっぱり、生徒会に入らないかい?」



 市川の返しに眉毛と眉毛が内側に寄ってしまう私。



 ……はっ、駄目よ。将来、眉間に皺が寄ってしまうわ。



 慌てて、顔の表情筋を緩めると、



「……この前きちんとお断りしたはずですよ」



「そんなこと言って良いのかい? 昨日のこの場所でのこと、黒閻の方々にお伝えしても良いんだよ?」



「何のことですか」



「まさか、ばれていないとでも思っているの? 生徒会ではね、空き教室や体育館倉庫に盗聴器を仕掛けさせてもらっているんだ」



「なっ‼」



「学校の風紀が乱れたら困るからね」



 そんな王子様スマイルで言われても、ちっともときめかないわ。



「……分かりました。生徒会に入れば良いんですね?」



 私のその言葉に、ようやく私の二の腕が解放される。



「君が話の通る人で良かったよ。……それじゃあ、早速放課後、生徒会室で待っているよ」



 そして、空き教室の扉に手を伸ばす市川。

 そこで思い出したように、動きを止めると、



「あ、そうそう。盗聴器の内容を聞く権限は、生徒会長の僕にしかないから安心しなよ」



 要するに、生徒会役員たちは誰も知らないってことね。



 市川を除いて。



 にやり。

 彼は悪魔のような笑顔だけを残していった。



 空き教室に一人取り残された私は、始業のチャイムが鳴っているのをどこか遠い世界のことのように感じながら、その場にへたり込んだ。



「……せっかくの二階デビュー初日なのに」



 なんて最悪の日なの。

 最後の言葉は、ただ口を動かすだけになった。
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