その女、女狐につき。

高殿アカリ

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3.仕組まれたリンチ事件

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 しかし、私の言葉の威力は絶大。



 大げさすぎる言葉は、時に人の思考回路までも奪っちゃうみたい。



「……そうか、ありがとうな」



 そう言って、私に向かって微笑んだのはフウガ。

 そう、泣く子も黙る黒閻の総長様。



 あんぐりと開きそうな口を必死で閉じて。

 ころりと落ちてしまいそうな目玉を押さえて。



 私はごくりと生唾を呑み込んだ。



 そして言いにくそうに、けれどもしっかりと彼はこう続けた。



「……一花のことを頼む」



 おまけに頭まで下げちゃったのよ、彼。



 泣く子も黙る……いいえ、二回目は止めておきましょう。



 私ははっと息を吸って、驚愕した。



 けれども、心の中では狂喜乱舞。



 黒閻の総長が、寵愛姫を頼むという行為。

 さらには頭までも下げるという行為。



 それは、私を認めたということに他ならない。



 総長公認の寵愛姫の親友となった。



 故に、この立場は寵愛姫と同じになる。



 寵愛姫が愛する者であり、そしてその愛を総長自らが認めたとき。



 その者は、黒閻の庇護下に入る。

 その者は、黒閻の寵愛姫と同じ扱いを受ける。



 その者、つまり、私は‼



 黒閻の守りの対象となる。

 そして、二階に上がれる権限を持つ。



 二階に!

 上がれる!

 権限を!

 持つ‼‼



 そう、ついに私は黒閻に受け入れられたのだ。

 偉大なる一歩を踏み出したのよ。



 さらば、地球。

 今なら火星の女王にでもなれそうよ、私。



 おほほほほほほ。

 おほほほほほほほほほほほほ。



 頬に手を当てて貴婦人笑いをしそうになる。

 必死に抑え込むと、少し右手が震えた。

 危なかったわ。



 とにかく、そうね。



「えっと、分りました……。これからもよろしくね、一花。ってことで良いんですかね?」



 黒閻総長に頭を下げさせることの意味を理解していないふりをした。
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