その女、女狐につき。

高殿アカリ

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3.仕組まれたリンチ事件

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 私のいる場所の反対側から音が聞こえてくる。



 がさ、がさ。

 がさ、がさ。



「天野一花さん、どこですか」



「返事してください!」



 生徒会役員たちの声と次第に近づいてくる足音。



 このままではやばい、と思ったのだろう。



 一花を散々いじめていた奴らの逃げていく足音も聞こえる。



 パタパタパタ。

 いつだって逃亡者の足音は軽やかなのだ。



 私はその様子を体育館の陰からこっそりと見ていた。



 倒れこんでいる一花に気が付いた山田先輩が、一花に駆け寄る。



 私はその様子をきっちりと写真に撮ってから、ケイに電話をかけ始めた。



「大丈夫か⁉」



 驚いたように駆け寄る生徒会役員の中に、生徒会長はいない。



 ふーん、あいついないんだ。



 ちょっとだけ残念だな、なんてね。



 全員が一花の周りに集まったところで、私は少し遠くから走り出す。



 プルルルルル、プルルルルル。



 携帯電話の呼び出し音を耳に、私の走ってくる音に警戒している生徒会役員たちの姿を目にしながら、私は泣きながら登場した。



「い、一花ぁ。うわぁぁぁぁん‼」



 そしてこのタイミングで電話の相手が出てくれた。

 あら、素敵。



「何ですか、原田さ……」



 不機嫌そうに出たケイは、私が泣き喚いていることに驚いたようだった。



「一花が、一花がぁぁぁ」



 私は今年一番の演技をした。




 痣だらけになった一花が保健室へ運ばれる。

 山田先輩に、お姫様抱っこで。



 もう一度言おう。

 山田先輩に、お姫様抱っこで。



 ふぅ、やるじゃん一花。



 でも残念。

 みんなの視線があるから写真には撮れないね。



 私は泣きながら、山田先輩の後に付いていく。



「い、一花ごめんね。もっとちゃんと止めておけばよかった」



 私は俯き加減で声を震わせる。



 一花は儚げに微笑んで首を横に振るばかり。

 気にしないでってことなんだろう。
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