その女、女狐につき。

高殿アカリ

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序章

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 里奈は中学時代からの友人の一人。



 特に思うところもなければ、疎遠にする必要もなかった女の子。



 ある意味貴重な友人A。



 そんな彼女と会話している私にそそぐ視線がいくつか。



 どうやら彼女はもうすでにこの教室内に味方を作ったらしい。



 探るようなその視線のもとに私は目をやって笑いかける。もちろん、これは愛想笑いだ。



 ぺこりとお辞儀をした私に気が付いて、里奈もやっと彼女たちが自分たちを見ていたことに気付いたようだ。



「あ」



 情けないような声を出して、彼女は私と新しい友人たちとを交互に見やる。



 ケバケバした里奈の新しい友人たちは、私たち二人をどういう風に捉えていいのか考えているようだった。



 なるほど、なるほど。



 さすがに里奈でも今日一日で完全な足場を形成できていたわけじゃなかったか。



 後々の交流のためにも、私は里奈を送り出すことにした。



「いいよ、里奈。行っておいで」

「え、でも……」



 戸惑う里奈に笑顔を一つ。



「また今度、紹介してよ。里奈の友達」



 私がそう言えば、里奈はもう何も言い返さない。



 そういうところ、好きよ、里奈。



 私はそう思いながら、去っていく彼女の背中を見送る。



 さあ、行ってちょうだい。

 未来の私の布石のために。



 里奈が彼女たちの輪に入ったのを確認して、私はゆっくりと自分の席を立った。



 ちらり、と廊下の方に視線をやって教師がまだ来ていないことを確認する。



 ゆっくり、ゆっくり、私は目当ての少女のところに足を進める。



 彼女は私の気配に気が付いたのか、読んでいた書物から目を上げてゆっくりと私の方を振り返る。



 その少女は、長い黒髪を二つに結んでいて。

 その少女は、既定の制服を着崩しもせず。

 その少女は、分厚い眼鏡の奥の瞳を潤ませて。



 そう、まさしく理想。

 ぴったりだわ。



 私はにっこりと彼女に笑いかけて、こう言った。



「私、原田愛美っていうの、よろしくね。あなたの名前は?」



 差し出した私の手を躊躇いがちに取って、彼女は言った。



「天野、一花」



 これがすべての始まりだった。

 すべてを覆すための、物語の。



 私は一花の手を取って、教室を出た。

 楽しい毎日を始めるために。
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