独りぼっちの異星人

高殿アカリ

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 出来たばかりの巨大なショッピングモールに着くと、シュウは分かりやすく興奮した。
「ぅおーーーー! こ、ここが! ショッピングモール!!!!」
「五月蝿いですよ、シュウ。鼓膜が破れます」
 霧雨が耳を抑えるも、シュウのテンションはしばらく下がりそうもない。
「だって、だってよぉ!」
「あはは! シュウは騒がしいところが好きよね~」
「朝倉さん、笑い事じゃないです。朝倉さんからも注意してください」
「え? んー、でもなー。楽しんでいるところに水を刺すのは忍びないでしょう?」
 茶目っ気たっぷりな千鶴にウインクして、そんなことを言われれば霧雨とて流石にこれ以上シュウに苦言を呈すことは出来ない。
「そ、れは、そうですけれど……」
「うんうん。霧雨も良い子に育ったな~」
 千鶴はにこにこと部下の様子をご満悦そうに眺めているのであった。

 食器売り場にやってきたシュウは、これまた興奮して商品を片手に千鶴の元へと駆け寄ってくる。
「マキシマムさんのコップ!」
「うん、いいんじゃない? シュウにぴったりね」

 洋服売り場では、小さな子どもたちに混ざり、到底シュウの身体では着られそうもない子ども服をまるで宝物かのように抱きしめていた。
「マキシマムさんの服!」
「本当に入りますか? それ」
 霧雨が呆れるのも無理はない。

 そして玩具売り場では、マキシマム・ザ・ヒーローの装着しているベルトを模倣した玩具を着けたシュウが叫んだ。
「マキシマムさんの変身ベルト! へ~ん、しんっ‼」
 ポーズを決めたシュウに二人からの冷静なツッコミが入る。
「「いや、それはいらないでしょ(う)」」
「………………‼︎」
 悲し気に表情を曇らせたシュウに向かって、霧雨が容赦なく弾丸を浴びせる。それは、家に余計なものを持ち込ませないという霧雨の強い意志そのものであった。
「そんなショックを受けた顔をされましても……それがあっても変身なんて出来ませんし。……そのこと、ちゃんと理解していますよね? まさか、貴方……!」
「霧雨、そのくらいにしておいてあげなさい。シュウのHPは既にないわ」
「確かに、そのようですね」
「え? 変身、出来ない、のか……?」
 変身ベルトを片手に、彼は分かりやすく打ちのめされていた。そう、シュウはあろうことか、玩具の変身ベルトで自らもマキシマムさんに変身出来ると信じていたのである。
 そして、そんな純粋馬鹿に、床に項垂れる体格の良いシュウの姿に憐れんだ眼差しを送る、二人であった。
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