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その日の遅く、シュウは自室をうろうろと歩き回っていた。
「やっぱり霧雨のことは信用ならねぇ」
シュウの本能がそう告げていた。
「昼間も、隠し事の匂いがした。あれは噓つきの匂いだ。ぜってぇ、俺が暴いてやる!」
シュウは鼻息荒く袖を捲った。そして、今夜も今夜とて日本支部内へ偵察しに行くのであった。
異星人であるシュウは日本支部内研究区画に自室を設けられていた。千鶴や霧雨は敷地外にある隊員のための単身寮に住んでおり、勤務時間外においては門限もあったはずだ。
だから、緊急事態でもない限り深夜に日本支部内を歩くことは規則違反になる。そのことは当然シュウも知っており、何より彼自身も夜更けに自室から出ているところを見られ、何度も懲罰行になっていたので、霧雨の行動には何かしら裏があることを確信していたのだ。
そして、今夜もまた霧雨は日本支部にやってきた。昨夜と同様にフードのついたローブを目深に被り、辺りを警戒しているようだ。
シュウは鋭く尖らせた爪を天井に打ち込み、静かに霧雨のあとをついていく。そうして、霧雨が向かったのは長官室の扉前だった。霧雨は再度、周囲を見渡したあと、静かに長官室に入っていった。
それを見届けたシュウは踵を返す。中で行われているだろう会話を盗み聞きするべく、慌てて建物の外側へと向かったのであった。
驚異の身体能力をふんだんに使い、彼は長官室の窓枠に張り付いていた。そして闇に紛れながら暗躍する自身の姿に恍惚として気分に浸っていた。
「うははは、俺だってやるときゃ、やれるのよ……!」
神経を研ぎ澄ませると、鮮明に彼らの声が聞こえる。シュウはその内容に霧雨への疑念を確信に変えたのであった。
「それで? 霧雨くん、例の件はどうだった?」
「あの場所なら何とかなりそうです」
「ちづちゃんにもバレてないよね、もちろん」
「えぇ。私がそんな初歩的なミスを犯すとでも?」
「いんやぁ、そうは思ってないけどさ。うーん、どっちかって言うと、情に絆されるタイプでしょ? だから、本当のこと言っちゃうんじゃないかなって」
「……はぁ、ミハエル長官は私のことを些か買い被っておられるようですね」
「へぇ、それはいったいどういう意味?」
「目的の為ならば、私はどんな嘘でも貫き通せる、ということですよ」
「ま、そうだったみたいだね。シュウくんもちづちゃんも、君の抱えている秘密に気が付いていないようだし。てことで、引き続きよろしく頼むよ、霧雨くん」
「はい、もちろんです。――――それでは」
霧雨はそう告げると、再びフードを深く被り直して長官室を出て行った。シュウもまた夜の影に隠れながら、自室へと戻る。
今見たことを思い返しながら、彼は毛布に包まった。千鶴の厳しくも柔和な笑顔を想起して、シュウにしては珍しく深刻な溜息を吐くのであった。
「霧雨が黒なのは確定した。しちまった、けどよぉ。……こんなこと、ちづさんになんて言えばいいんだよ……」
――――ちづさんは、俺よりも霧雨のことをよく知っているわけだし、秘密にしておくのもまた、しんどいもんだな。
「……って、いやいや。なんで俺がこんなことで悩まねぇといけないんだよ! あーーーー、もう! こうなったら霧雨に直接聞いてやる。あいつのせいで頭痛くなってきたわ。もう、寝る! 俺は、寝るぞ‼」
腕を組んでシュウは眠りに落ちた。その夜の彼は、霧雨の嘲笑に耐える悪夢を見たのだとか。
「やっぱり霧雨のことは信用ならねぇ」
シュウの本能がそう告げていた。
「昼間も、隠し事の匂いがした。あれは噓つきの匂いだ。ぜってぇ、俺が暴いてやる!」
シュウは鼻息荒く袖を捲った。そして、今夜も今夜とて日本支部内へ偵察しに行くのであった。
異星人であるシュウは日本支部内研究区画に自室を設けられていた。千鶴や霧雨は敷地外にある隊員のための単身寮に住んでおり、勤務時間外においては門限もあったはずだ。
だから、緊急事態でもない限り深夜に日本支部内を歩くことは規則違反になる。そのことは当然シュウも知っており、何より彼自身も夜更けに自室から出ているところを見られ、何度も懲罰行になっていたので、霧雨の行動には何かしら裏があることを確信していたのだ。
そして、今夜もまた霧雨は日本支部にやってきた。昨夜と同様にフードのついたローブを目深に被り、辺りを警戒しているようだ。
シュウは鋭く尖らせた爪を天井に打ち込み、静かに霧雨のあとをついていく。そうして、霧雨が向かったのは長官室の扉前だった。霧雨は再度、周囲を見渡したあと、静かに長官室に入っていった。
それを見届けたシュウは踵を返す。中で行われているだろう会話を盗み聞きするべく、慌てて建物の外側へと向かったのであった。
驚異の身体能力をふんだんに使い、彼は長官室の窓枠に張り付いていた。そして闇に紛れながら暗躍する自身の姿に恍惚として気分に浸っていた。
「うははは、俺だってやるときゃ、やれるのよ……!」
神経を研ぎ澄ませると、鮮明に彼らの声が聞こえる。シュウはその内容に霧雨への疑念を確信に変えたのであった。
「それで? 霧雨くん、例の件はどうだった?」
「あの場所なら何とかなりそうです」
「ちづちゃんにもバレてないよね、もちろん」
「えぇ。私がそんな初歩的なミスを犯すとでも?」
「いんやぁ、そうは思ってないけどさ。うーん、どっちかって言うと、情に絆されるタイプでしょ? だから、本当のこと言っちゃうんじゃないかなって」
「……はぁ、ミハエル長官は私のことを些か買い被っておられるようですね」
「へぇ、それはいったいどういう意味?」
「目的の為ならば、私はどんな嘘でも貫き通せる、ということですよ」
「ま、そうだったみたいだね。シュウくんもちづちゃんも、君の抱えている秘密に気が付いていないようだし。てことで、引き続きよろしく頼むよ、霧雨くん」
「はい、もちろんです。――――それでは」
霧雨はそう告げると、再びフードを深く被り直して長官室を出て行った。シュウもまた夜の影に隠れながら、自室へと戻る。
今見たことを思い返しながら、彼は毛布に包まった。千鶴の厳しくも柔和な笑顔を想起して、シュウにしては珍しく深刻な溜息を吐くのであった。
「霧雨が黒なのは確定した。しちまった、けどよぉ。……こんなこと、ちづさんになんて言えばいいんだよ……」
――――ちづさんは、俺よりも霧雨のことをよく知っているわけだし、秘密にしておくのもまた、しんどいもんだな。
「……って、いやいや。なんで俺がこんなことで悩まねぇといけないんだよ! あーーーー、もう! こうなったら霧雨に直接聞いてやる。あいつのせいで頭痛くなってきたわ。もう、寝る! 俺は、寝るぞ‼」
腕を組んでシュウは眠りに落ちた。その夜の彼は、霧雨の嘲笑に耐える悪夢を見たのだとか。
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