独りぼっちの異星人

高殿アカリ

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 新しく出来た郊外の市街地を第三番隊がパトロールしている時のことだった。
 大きな円形の建造物が、乱立するマンションの隙間を縫って、シュウの視界の隅に映り込む。すると、彼は興奮したように先を歩く二人に向かって叫んだ。
「なんだぁ、あれ!」
 この場で一番長身である霧雨の肩を支えとして、シュウは建造物をよく見ようと爪先立ち、首を伸ばした。彼の茶髪が霧雨の頭部を擽る。
「重たいです、シュウ」
 眉目秀麗な霧雨の顔が不快を表している。
「かっけぇ、丸い! すっげぇぇえ」
 図体の大きさに似合わず、シュウの好奇心は少年のそれだった。否、彼の境遇を考えればそれも至極当然のことであるのだが。
 長く深い溜息を吐きながら、霧雨はシュウの身体を退かした。
 その二人の様子をくすりと微笑みながら見守っているのは第三番隊隊長、朝倉千鶴。自らの上司である彼女に視線を送りながら、霧雨は恨みがましい口調で言う。
「何を笑っているのですか、朝倉さん」
 その声色は随分ととげとげしい。
 絹のように繊細できらきらと煌めく白銀の長髪を持ち、女性のように真っ白な肌をした霧雨は、端正な顔立ちと合わさって紳士のように思われがちである。しかし、実際の彼は見た目とは裏腹にかなり面倒くさい性格をしていることを千鶴は知っていた。
 だからこそ、霧雨もまた彼女の前でだけは出逢った幼少期の頃のようにありのままの自分の姿を曝け出せているのだ。
「いやぁ、実に平和だなぁと思ってね」
 霧雨に向かって微笑んだあと、彼女はシュウに建造物の正体を教えてあげた。
「シュウ、あれは観覧車だ。最近この辺りに出来た遊園地のものだろうね」
「遊園地ぃ? って、なんだそれは! 面白いところか? わくわくするか?」
 シュウが千鶴に突進して行く。千鶴はシュウの扱い方が上手いから任せても大丈夫だろう、と霧雨は二人のテンポの良い掛け合いをぼんやりと眺めた。
 そうしながら、彼は昨日の出来事について思考を巡らせていた。

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