春のうらら

26

　オズヴァルドを始め、スピカや目覚めたシュヴァルツェも動き出した。
　各国王を諭すのは困難を極めた。だが、ニクラスの存在を公にすることにより、オズヴァルドはリーラム帝国とソレニカ教国両方の民たちに直接働きかけたのだ。
　長きに渡るリーラム帝国の搾取の実態を明らかにし、主導していたリーラム帝国国王を権力の座から引き摺り降ろすことに成功した。
「苦労をかけることになるぞ、ニクラス。それでもいいのか」
「貴方についていく、とあの日に約束したじゃありませんか」
　両国の和平を公約に掲げ、オズヴァルドは正式にリーラム帝国新国王に就任した。
　また、ニクラスの生死が確定し、かつ彼が次期王位継承権を永久に放棄することにより、ソレニカ教国内部の抗争も終結を迎えた。
　シュヴァルツェとマロンは世界各国の魔術師たちを一堂に会し、魔界領域機関の存在と目的を公表した。
　魔術師たちの中から合意を得た者に関しては魔界領域内に居住を構える運びとなった。魔術師が魔界領域に長期的に滞在することにより、魔力供給が満たされ、原因不明の突然死が無くなるのではないかという仮説に基づいた提案であった。
　当初、効果があるのかと疑われながら始まった臨床実験ではあったが、数年もしないうちに、魔界領域内の豊潤な魔力環境と魔物たちの側で過ごすことにより、吸い取られる魔力量が激減したという実験結果が出たのだ。
　この結果を皮切りに、自然系を回復させる研究分野の調査研究が進んだ。また力が強大でない魔術師には小さな扱いやすい魔物を愛玩動物として飼育する習慣が普及していった。
　世界規模の魔術師協会も設立された。そこでは各国の戦争に関して、自然がある程度回帰するまでの数百年間は行わない決議が円卓会議で可決された。
　こうして、十年もしないうちに気が付けば人類滅亡の危機は免れていた。麗のシミュレーションでは一切示されていなかった未来だった。