24 / 27
24
しおりを挟む
近頃、噂になっている魔術師誘拐事件。手口は分からず、誘拐された魔術師たちの行方も未だ杳として知れず。それも誘拐されるのは力のある魔術師ばかりだというのだから、世界は震撼していた。
各国は前代未聞のこの事態にただ手をこまねくしかない。どれだけ厳重に自国の魔術師を警備しても、ほんの一瞬の隙をついて連れていかれるのだ。それこそまるで奇怪な魔法のように。
この事件の話題は魔界領域にまでやってきた。
魔界の住民たちから情報を聞いたシノニムは早速麗に話をしたのだ。
魔術師が絡んでいる以上、無関係ではいられないのだから。
「力の強い魔術師が誘拐されているらしい」
「私も聞いたわ」
「大丈夫なのか?」
「え? 大丈夫って何が」
「いや、魔術師を絶滅させないために魔界領域の活動を行っているだろう」
「えぇ、そうね」
「それなのに心配じゃないのか。どの国の仕業かは分からないが、このまま力のある魔術師がいなくなれば……」
ここで、ふとシノニムはある論理のメカニズムに気が付いてしまった。それは開けてはならないパンドラの箱であった。
だが、同時に走り出した思考は彼にも既に止めることは出来なかったのだ。
力のある魔術師たちがいなくなって一番に徳をするのは一体誰だ。
一国の魔術師だけが誘拐されているわけではない。
事件は世界中、地域を問わずに起きている。
共通点は魔法の能力値が高いことだけ。
そもそも魔術師が絶滅してしまえば、ロプト・アルファの力もなくなるのではないか。
もしも、彼女が魔術師と自然界の共存ではなく、魔術師の絶滅を望んだとしたら……。
嫌な予感にシノニムの背筋が震えた。
彼の様子に違和感を覚えた麗がシノニムの顔を覗き込む。
「? どうかした?」
純粋な疑問符を浮かべる麗。
だが、その奥に眠る可能性に既にシノニムは勘付いていた。
「いや、なんでもない。……それより怖い話だな」
「そうね」
悲しそうに目を伏せた麗からは邪悪な感情は見えてこない。
一方で、魔術師たちがいなくなっているにも関わらず、焦りも見せてはいないのだ。そこに魔術師を保護する機関の最高責任者の姿はない。
麗の表情を注意深く観察しながら、シノニムは口を開いた。
「シュヴァルツェが心配だな」
「えぇ、本当に」
麗は肯定しかしない。
彼女のことだから、何か対策をしていそうなものなのに、その話も出てこない。
やはりおかしい。
シノニムの違和感に確信を持ったところで、麗がリーラム帝国に用事があると言って、次の日には出発していた。
その日の遅く、帰宅した麗。
そして届く続報がシノニムの懐疑心が間違っていなかったことを証明した。
シュヴァルツェも誘拐されたのだ。
王城内に厳重に軟禁されていたはずの彼を連れ去ることが出来る人物はかなり限られている。
その夜のことだった。
シノニムは夜中に目を覚まし、麗の姿を求めて魔王城内を歩いていた。
ランタンを持った彼女が遠くに見え、彼は少しずつ近づいていく。
彼女はそのまま書斎へ入ると、何やら本棚に一部を動かした。
その先にはシノニムも知らなかった地下へと続く階段があった。
彼は、影に飲まれて秘密の地下室へと降りていく麗をただ見ていることしか出来なかった。
「まさか……」
彼は踵を返すと、リーラム帝国に向かって一角獣を駆けさせた。
各国は前代未聞のこの事態にただ手をこまねくしかない。どれだけ厳重に自国の魔術師を警備しても、ほんの一瞬の隙をついて連れていかれるのだ。それこそまるで奇怪な魔法のように。
この事件の話題は魔界領域にまでやってきた。
魔界の住民たちから情報を聞いたシノニムは早速麗に話をしたのだ。
魔術師が絡んでいる以上、無関係ではいられないのだから。
「力の強い魔術師が誘拐されているらしい」
「私も聞いたわ」
「大丈夫なのか?」
「え? 大丈夫って何が」
「いや、魔術師を絶滅させないために魔界領域の活動を行っているだろう」
「えぇ、そうね」
「それなのに心配じゃないのか。どの国の仕業かは分からないが、このまま力のある魔術師がいなくなれば……」
ここで、ふとシノニムはある論理のメカニズムに気が付いてしまった。それは開けてはならないパンドラの箱であった。
だが、同時に走り出した思考は彼にも既に止めることは出来なかったのだ。
力のある魔術師たちがいなくなって一番に徳をするのは一体誰だ。
一国の魔術師だけが誘拐されているわけではない。
事件は世界中、地域を問わずに起きている。
共通点は魔法の能力値が高いことだけ。
そもそも魔術師が絶滅してしまえば、ロプト・アルファの力もなくなるのではないか。
もしも、彼女が魔術師と自然界の共存ではなく、魔術師の絶滅を望んだとしたら……。
嫌な予感にシノニムの背筋が震えた。
彼の様子に違和感を覚えた麗がシノニムの顔を覗き込む。
「? どうかした?」
純粋な疑問符を浮かべる麗。
だが、その奥に眠る可能性に既にシノニムは勘付いていた。
「いや、なんでもない。……それより怖い話だな」
「そうね」
悲しそうに目を伏せた麗からは邪悪な感情は見えてこない。
一方で、魔術師たちがいなくなっているにも関わらず、焦りも見せてはいないのだ。そこに魔術師を保護する機関の最高責任者の姿はない。
麗の表情を注意深く観察しながら、シノニムは口を開いた。
「シュヴァルツェが心配だな」
「えぇ、本当に」
麗は肯定しかしない。
彼女のことだから、何か対策をしていそうなものなのに、その話も出てこない。
やはりおかしい。
シノニムの違和感に確信を持ったところで、麗がリーラム帝国に用事があると言って、次の日には出発していた。
その日の遅く、帰宅した麗。
そして届く続報がシノニムの懐疑心が間違っていなかったことを証明した。
シュヴァルツェも誘拐されたのだ。
王城内に厳重に軟禁されていたはずの彼を連れ去ることが出来る人物はかなり限られている。
その夜のことだった。
シノニムは夜中に目を覚まし、麗の姿を求めて魔王城内を歩いていた。
ランタンを持った彼女が遠くに見え、彼は少しずつ近づいていく。
彼女はそのまま書斎へ入ると、何やら本棚に一部を動かした。
その先にはシノニムも知らなかった地下へと続く階段があった。
彼は、影に飲まれて秘密の地下室へと降りていく麗をただ見ていることしか出来なかった。
「まさか……」
彼は踵を返すと、リーラム帝国に向かって一角獣を駆けさせた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった
ありあんと
ファンタジー
アラサー社会人、時田時夫は会社からアパートに帰る途中、女子高生が聖女として召喚されるのに巻き込まれて異世界に来てしまった。
そして、女神の更なるミスで、聖女の力は時夫の方に付与された。
そんな事とは知らずに時夫を不要なものと追い出す王室と神殿。
そんな時夫を匿ってくれたのは女神の依代となる美人女神官ルミィであった。
帰りたいと願う時夫に女神がチート能力を授けてくれるというので、色々有耶無耶になりつつ時夫は異世界に残留することに。
活躍したいけど、目立ち過ぎるのは危険だし、でもカリスマとして持て囃されたいし、のんびりと過ごしたいけど、ゆくゆくは日本に帰らないといけない。でも、この世界の人たちと別れたく無い。そんな時夫の冒険譚。
ハッピーエンドの予定。
なろう、カクヨムでも掲載
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる