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大広間の前の扉で一人の少女がシノニムたちを待ち構えていた。
彼女は三人に気付き、駆け寄る。
「シュヴァルツェ!」
栗色の髪をした平凡な少女だった。
彼女は魔術師の名前を呼ぶと、シノニムに身体を預けている彼を引き剝がした。
それから、勢いよく二人に向かって頭を下げたのだった。
「ごめんなさい」
この少女は誰だ、という二人の視線を受けシュヴァルツェはゆっくりと説明した。
「マロン。僕の双子の妹」
シュヴァルツェが言った側から妹であるという彼女は自らの兄の身体を引き摺り、その場を立ち去ろうとしていた。
「舞踏会、楽しんでくださいね~」
控えめな見た目に反して兄を引っ張っていくその様は不可思議なものであった。
「彼女も魔術師みたいね。最も力はそこまで大きくはなさそうだけれど」
麗の言葉にシノニムははっとした。
「あぁ、だからあんなに軽々と運べているのか。あの華奢な腕のどこにそんな筋力があるのかと」
「天才の兄に振り回される双子の妹がいるという話は有名なのよ。あながち筋肉はあるかもしれないわよ?」
うふふと笑う麗にシノニムは怪訝な表情を返した。
揶揄っていることが分かったからだ。
「さぁ、入りましょう」
麗はシノニムの腕を取り、大広間へと足を進めた。
扉の両脇に控えていた執事たちがシノニムと麗の動きに合わせ、扉を開く。
目の前に広がる世界はどこまでも煌びやかであった。
シャンデリアが会場を煌々と照らし、着飾った人々が思い思いに踊っている。
どこか非現実な光景に意識を飛ばしているシノニムの注意を麗が引く。
彼女はふんわりと笑って彼に話しかけた。
「一緒に踊りましょうか?」
「あぁ」
シノニムもまた笑い返すと、彼女に向かって膝をついた。
手と手を取り合い、優雅に踊る勇者と魔王。
彼らの存在に注視する人間はいなかった。
少なくとも夢のような舞踏会の広間には。
辺りの景色も目の前の人物の奥に滲み、耳に届くのは優しいワルツの音色、それから相手の呼吸だけ。
たった二人きりの世界でシノニムたちは見つめ合った。
ふわりと麗がスカートを膨らませて回る。
シノニムの視線は自然と彼女の揺れる髪に流れた。
「麗、俺は勇者にはならない」
驚く榛色の瞳がシノニムを見る。
彼は安心させるように笑った。
「俺は君の味方だ。今も昔も、そしてこれからも」
「ありがとう、シノ」
目尻を下げて麗はそう言った。
シノニムの心の奥で何かがきゅうと鳴った、気がした。
二人は夜更けまで舞踏会を楽しんだ。
踊って、踊って、それから微笑みを交わす。
楽しさと嬉しさにシノニムは胸がいっぱいになった。
そんな感情が湧き出るのは本当に久しぶりのことであった。
ずっとこんな夜が続けばいいのに、シノニムは素直にそう願った。
一度は失ったと思った麗とこんな風に笑い合えるなど、誰が予想しただろうか。
シノニムはこの上ない幸せを噛み締めていた。
麗が側にいてくれるのなら、もう何も怖いものなどないのだから。
彼女は三人に気付き、駆け寄る。
「シュヴァルツェ!」
栗色の髪をした平凡な少女だった。
彼女は魔術師の名前を呼ぶと、シノニムに身体を預けている彼を引き剝がした。
それから、勢いよく二人に向かって頭を下げたのだった。
「ごめんなさい」
この少女は誰だ、という二人の視線を受けシュヴァルツェはゆっくりと説明した。
「マロン。僕の双子の妹」
シュヴァルツェが言った側から妹であるという彼女は自らの兄の身体を引き摺り、その場を立ち去ろうとしていた。
「舞踏会、楽しんでくださいね~」
控えめな見た目に反して兄を引っ張っていくその様は不可思議なものであった。
「彼女も魔術師みたいね。最も力はそこまで大きくはなさそうだけれど」
麗の言葉にシノニムははっとした。
「あぁ、だからあんなに軽々と運べているのか。あの華奢な腕のどこにそんな筋力があるのかと」
「天才の兄に振り回される双子の妹がいるという話は有名なのよ。あながち筋肉はあるかもしれないわよ?」
うふふと笑う麗にシノニムは怪訝な表情を返した。
揶揄っていることが分かったからだ。
「さぁ、入りましょう」
麗はシノニムの腕を取り、大広間へと足を進めた。
扉の両脇に控えていた執事たちがシノニムと麗の動きに合わせ、扉を開く。
目の前に広がる世界はどこまでも煌びやかであった。
シャンデリアが会場を煌々と照らし、着飾った人々が思い思いに踊っている。
どこか非現実な光景に意識を飛ばしているシノニムの注意を麗が引く。
彼女はふんわりと笑って彼に話しかけた。
「一緒に踊りましょうか?」
「あぁ」
シノニムもまた笑い返すと、彼女に向かって膝をついた。
手と手を取り合い、優雅に踊る勇者と魔王。
彼らの存在に注視する人間はいなかった。
少なくとも夢のような舞踏会の広間には。
辺りの景色も目の前の人物の奥に滲み、耳に届くのは優しいワルツの音色、それから相手の呼吸だけ。
たった二人きりの世界でシノニムたちは見つめ合った。
ふわりと麗がスカートを膨らませて回る。
シノニムの視線は自然と彼女の揺れる髪に流れた。
「麗、俺は勇者にはならない」
驚く榛色の瞳がシノニムを見る。
彼は安心させるように笑った。
「俺は君の味方だ。今も昔も、そしてこれからも」
「ありがとう、シノ」
目尻を下げて麗はそう言った。
シノニムの心の奥で何かがきゅうと鳴った、気がした。
二人は夜更けまで舞踏会を楽しんだ。
踊って、踊って、それから微笑みを交わす。
楽しさと嬉しさにシノニムは胸がいっぱいになった。
そんな感情が湧き出るのは本当に久しぶりのことであった。
ずっとこんな夜が続けばいいのに、シノニムは素直にそう願った。
一度は失ったと思った麗とこんな風に笑い合えるなど、誰が予想しただろうか。
シノニムはこの上ない幸せを噛み締めていた。
麗が側にいてくれるのなら、もう何も怖いものなどないのだから。
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