53 / 53
番外編
キース×クリス その4。(完)
しおりを挟む
僕の望み通り、あの日からずっとクリスは僕だけのものになった。
いつの間にか再びクリスは怠惰な夢の中に落ちているようだった。
昨日は随分と無理をさせてしまったからな……。
あの頃と同じように、健やかに微睡むクリスの寝顔を見ながら僕はひっそりと呟いた。
たった一人きりの世界への独白だった。
「親に愛されていなければ……良かったのかもな」
失笑気味に呟いたその言葉の先を飲み込みながら、僕はクリスのその豊かで繊細な金色の髪に顔を埋めた。
親に愛されていなければ良かった。
いっそのこと、憎まれていれば良かった。
それなら、こんなにも愛を求めなかったのに。
親は僕を愛してくれていた。
ちゃんと愛情を持って育ててくれていた。
ただそれが、エドワードへの愛情に劣っていただけだった。
僕はエドワードより愛されたことがなかった。
両親にも、臣下たちにも、傲慢な老貴族にも、そして恐らくは愛しい我が恋人にも。
だけど、どうしろと言うのだろう。
何をしても一番に愛されるエドワードを前に、一体僕は何ができたというのだろう。
誰も彼もの、一つ一つの行動にも仕草にも、愛を探してしまう。
クリスの表情ひとつにさえ。
それがもうずっと、何年も続いてきた。
クリスの瞼がゆっくりと開く。
まるでおとぎ話の眠り姫のように。
僕は慈しむように微笑んで、
「おはよう、僕だけのお姫様」
その頬にキスをひとつ落とした。
そして、彼の瞳を覗き込み、今日も今日とてそこに僕しか写っていないことを確認して安堵する。
いつまで続けるつもりだろう。
こんな不安定なやり方で。
ふと脳裏を過った猜疑心を打ち消して、僕は僕だけのお姫様をその腕に閉じ込めた。
果たしてこの恋は本物と言えるだろうか、それともーーーー。
いつの間にか再びクリスは怠惰な夢の中に落ちているようだった。
昨日は随分と無理をさせてしまったからな……。
あの頃と同じように、健やかに微睡むクリスの寝顔を見ながら僕はひっそりと呟いた。
たった一人きりの世界への独白だった。
「親に愛されていなければ……良かったのかもな」
失笑気味に呟いたその言葉の先を飲み込みながら、僕はクリスのその豊かで繊細な金色の髪に顔を埋めた。
親に愛されていなければ良かった。
いっそのこと、憎まれていれば良かった。
それなら、こんなにも愛を求めなかったのに。
親は僕を愛してくれていた。
ちゃんと愛情を持って育ててくれていた。
ただそれが、エドワードへの愛情に劣っていただけだった。
僕はエドワードより愛されたことがなかった。
両親にも、臣下たちにも、傲慢な老貴族にも、そして恐らくは愛しい我が恋人にも。
だけど、どうしろと言うのだろう。
何をしても一番に愛されるエドワードを前に、一体僕は何ができたというのだろう。
誰も彼もの、一つ一つの行動にも仕草にも、愛を探してしまう。
クリスの表情ひとつにさえ。
それがもうずっと、何年も続いてきた。
クリスの瞼がゆっくりと開く。
まるでおとぎ話の眠り姫のように。
僕は慈しむように微笑んで、
「おはよう、僕だけのお姫様」
その頬にキスをひとつ落とした。
そして、彼の瞳を覗き込み、今日も今日とてそこに僕しか写っていないことを確認して安堵する。
いつまで続けるつもりだろう。
こんな不安定なやり方で。
ふと脳裏を過った猜疑心を打ち消して、僕は僕だけのお姫様をその腕に閉じ込めた。
果たしてこの恋は本物と言えるだろうか、それともーーーー。
0
お気に入りに追加
676
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(9件)
あなたにおすすめの小説
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
window
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
BLってボーイズラブですよね…BL恋愛ゲームイコールボーイズラブ恋愛ゲーム…恋愛恋愛ゲーム?
久しぶりに読み返しました。
主人公のぶっ飛びっぷり(??)が好きです!!
もう更新されないのかな、、、?
無理をなさる必要は全然ありませんが、私は密かに楽しみにしてます!!(切実に)
応援してます!!!
ありがとうございます。只今、目頭が少し熱くなっております……。とてもとても、嬉しいです。本当に。
必ず更新する!とお約束することは出来ないですが、加筆修正をすることも含めてこの子達の未来を少し考えたいと思います。本当に本当にありがとうございます!!
はじめまして。
いつも楽しみにしております。更新ありがとうございました。
さて…この(作品の)世界…毎回びっくりかつ楽しみにしておりますが…(苦笑)
今回「超~ぶっ飛び~!!(゜ロ゜ノ)ノ」でしたΣ(-∀-;)
ビーエルでも子孫はできるんですね(;゜∇゜)
何か昔流行った『パ◆リ●』を思い出しました(苦笑)
はじめまして。
こちらこそ、感想はとても励みになります。
いつもありがとうございます\(^o^)/