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真実

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僕の父は、詩人だった。

父の作品はベストセラーになるような、教科書の一番初めのページに載せてもらえるような、そんな立派なものではなかったけれど。
いつも、国語の便覧の、一番隅の方に載っていた。

小さく掲載されている自分の作品を、毎年、彼は誇らしげに僕に見せてくる。
それが僕の父だ。

彼は自分の作品を十分に堪能した後、国語の教科書の一番初めのページを開く。
自分の作品が一度も載ったことがないその場所を、愛おしそうに撫ぜ、何故か泣きそうな表情をするのだ。

そんなに教科書に掲載されたいのか、と思い、僕も同じように毎年、そのページを何とはなしに眺めていた。
父と肩を並べながら。

その初めのページには大抵いつも同じ人の詩が掲載されていた。
その人は、名前から予想するに女の人らしく、繊細かつ情緒に富んだ作風だった。

一度、父に聞いてみたことがある。

「お父さん、ここに載っている人と知り合いだったりする?」

ちょっとした好奇心のようなものだった。
知り合いじゃないだろうと思っていたし、知り合いだったとしても、ちょこっと顔を合わせたことがあるとかそんなところだろう、と。

だから、父が酷く切なげな表情をして、遂ぞ僕の質問に何も返さなかったことは印象的な出来事だった。

そんな父が先日、亡くなった。
長い闘病生活の果てのことだった。

そして、その翌日、死んだ父の後を追うように、母も死んだ。
彼女は家のリビングで首を吊っていた。
警察の捜査が入るも、結局、自殺ということだった。

警察が僕に手渡したのは、たった一枚の紙きれだった。
母が死ぬ前に握っていたものだ。

そこに書かれていたのは、一つのURLだった。
警察はそのサイトも調べたけれど、特に何も気になるものは見つからなかったのだとか。

「何か心当たりはありませんか」

彼らの質問に、僕は何も答えられなかった。
でも、ほとんど直感的に、そのサイトが母の死の原因のような気がしていた。

僕の母は、自殺をするような人ではない。
なぜなら、彼女は父の葬式で僕にこう言ったのだ。

「しばらくは苦しくなるかもしれないけど、二人で一緒に頑張っていこうね。お父さんの分までちゃんと生きていこうね」

確かに、疲れた顔をしていたのかもしれない。
けれど、その瞳は十分生気に満ち溢れていたはずだ。

僕は渡された紙きれに書かれたサイトを開いた。
淡い黒を背景に、掲示板の機能だけがつけられている、とてもシンプルなサイトだった。

そこには、二人の男女の愛が綴られていた。
交互に紡がれるその言葉たちは、どこか懺悔の色を纏っていた。

まるで会話のような、物語の断片のような、そんな愛の文通は詩的な表現で描かれていた。

彼らは出会い、そして別れた。
原因は、どうやら男の家庭に子供が生まれたことだった。
しかし、二人は未だ愛し合っていた。

逢瀬を重ねることは出来ずとも、愛を伝え合うことは出来たのだ。
その情緒溢れる文才を、この掲示板という形をした「手紙」に載せて。

彼らは愛し合っていた。
幸せな家庭のその裏で。

僕や母さんを愛するフリをした、
その裏で。

母が死んだ原因も、記憶にある父の切なげな表情の原因も、すべてを理解した僕は思う。



愛なんて、糞くらえだ。
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