セイ

高殿アカリ

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「えっちゃん……」

僕の大切な女の子。
あの子はいなくなってしまった。
僕の想いだけを残して。

「どうせなら、僕の気持ちも聞いてくれたって良かったのに」

えっちゃんは覚えていなかったけれど、えっちゃんは僕のお姫様なんだ。
もう、何年も前から。

「あの頃はせいちゃんって呼んでくれていたのに……」

ぼやいた言葉が空に溶ける。
綺麗な、空だった。

それでも、もう僕は泣かないよ。
えっちゃんがあんなにも綺麗に笑ったんだ。

僕だけがいつまでも引きずっていられないよ。


あれはまだ僕が小学校の黒板消しだったころのこと。

「ねぇ、何て言うの? 名前」

彼女は今と少しも変わらない無邪気で愛らしい表情で。

「……黒板消しの精霊、とか、妖精とかって呼ばれてるよ」

僕は今以上に泣き虫の弱虫で、また怖がられちゃうのかな、なんて思って怖くて。

彼女はそんな僕を包み込むように。

「じゃぁ、私が名前を付けてあげるよ!」

う~ん、と真剣に悩む彼女が可愛かった。

遠い日の彼女が僕の名を呼ぶ。

「せいちゃん!」

ずっとずっと、大切だった。
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