美しき禁断の果実

高殿アカリ

文字の大きさ
上 下
9 / 14

9

しおりを挟む

唇に温かいものを感じて私は目を覚ました。
どうやら一瞬だけ気を失っていたみたい。

焦点が世界を捉えると、至近距離に雪五朗の漆黒の瞳があった。
真っ黒なそこに私が映っていた。

目と目が合った、と思ったときにはもう一度唇が触れ合っていた。
一瞬のち、離れたあと彼が口を開いた。

「この部屋には露天風呂が付いているらしい」
「そう」

「そこから見える景色は一等綺麗なんだとか」
「そう」

「……一緒に入らないか?」

彼は自分の言葉に耳朶を真っ赤にさせていた。
無表情な顔とは裏腹にどうやら照れているらしかった。

本当に、この男は。

不覚にも貰い照れしながら、私もまた微かに頬を染めてこくんと頷いた。

未だ私の上に乗っている雪五朗の身体を押し返しながら、自ら立ち上がろうと身体に力を入れた。

だが、そんな私の行動は不可抗力的に高くなる視点によって阻まれたのだった。
彼が私をお姫様抱っこしているのに遅れて気づいた。

「ちょっと! 降ろしてよ」
「駄目だ」

慌てて抗議する私に被せるように即答した雪五朗。
恥ずかしさにムゥ、と眉根を寄せるとそこに口づけが降りてくる。

そういうことではないという思いと、ほんのりとした嬉しさが私の心を複雑にする。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、雪五朗がふっと笑みを見せたのだ。
彼の微笑の中に愛おしさが含まれているような気がして、私は酷く驚いた。

こんな優しい表情をわたしにも向けるのね。

林檎の木を見ていた彼の横顔を思い出して、ちくりと胸の奥が軋んだ。

そのままの流れで気が付けば私は彼に甲斐甲斐しく全身を洗われていた。
隅々まで優しく触られて、私の身体がぽーっと熱くなっていく。

その熱に名前が付けられる前に、彼の手は私の頭に伸びていた。
丁寧に髪を洗われながら、その心地よさに今度は目を細めた。

意外とテクニシャンなのね。

雪五朗がぽわぁと気持ちよくなった私を抱えて、ゆっくり露天風呂に浸かる。
熱いくらいの温泉が私たちの身体を芯から温めてくれた。

確かに、雪五朗の言う通り山の向こう側に沈んでいく夕焼けと豪奢な滝の眺めは圧巻だった。

硫黄によって白くなったお湯が私たちの身体を包み隠している。
その中で、私は彼に後ろから抱き締められていた。

拒否する理由もなくて、そのままにしていると次第にゆっくりと雪五朗の大きな手が私の全部をつまびらかにしていく。

触られて、キスをされて、たぶん私はのぼせてもいたのだろう。

――――彼に、触れたい。

そう思ったときには既に私は彼の身体を弄っていた。
筋肉質な雪五朗の身体はとても官能的だった。

驚いた彼の表情にはっと自分の行動を顧みて、赤面する。

それでも、一度生まれた私の欲望は止まらなかった。

「何よ。……火をつけたのは、貴方でしょ」

ついっとそっぽを向いてそう言うと、ぎゅうっと抱きしめられた。

「っ、煽んな」

掠れた艶っぽい声が耳を犯す。
彼のそれが固くそそり立ち、私の腹に当たっていた。

微かな予感に身体の奥が疼いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

処理中です...