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しおりを挟む前を向いたまま、後ろに雪五朗の気配を感じる。
どんな顔をして振り返ればいいのか分からない。
立ち止まったままの私の頭にふわり、と何かが乗せられた。
一枚の花弁が舞い降りてくる。
「え?」
戸惑う私の手を引いて、雪五朗が私を振り向かせる。
「花冠は嫌いか……?」
図体のでかい大男の口から「花冠」という似合わない単語が飛び出してきた。
そこでようやく私の頭に花冠が乗せられているのだと気づいた。
「……編んだの?」
私の問いに素直に頷く雪五朗。
つくづく似合わないことをしてくる男だ。
そして乾いた唇を舐め、彼は恐る恐る口を開いた。
何かを窺っているような様子ですらあった。
「君は、庭園のお姫様だから……」
私をからかっているのだろうか。
思いもよらない二つ名を付けられ、私はきょとんと間の抜けた顔をした。
意図が全く伝わっていないことに彼は恥ずかしさを覚えたようで、耳の端がほんのり色付いていた。
その様子をぼんやり眺めていると、ふいに視界が暗くなる。
はっと視線をあげると、すぐそばに彼の顔があった。
珍しく、彼は酷く泣きそうな笑みを見せていた。
なぜ、どうして。
……そんな顔をしているの。
「無防備な顔をしているのはわざとなのか?」
問われた意味を理解する前に、私の唇は彼に奪われていた。
「ふっ、」
吐息が漏れ、今度は私の耳が羞恥に染まる。
交わした口づけは甘かった。
林檎の香りに脳の奥が蕩けそうになる。
次第に口づけは深くなっていき、彼の舌が私の口内を蹂躙する。
「、っふぁ」
あられもない声が羞恥を煽ってくる。
雪五朗の大きな身体が私を包み込む。
温かい人肌に、どこまでも優しい口づけに、まるで愛されているかのような錯覚に陥る。
快感で潤む視界で雪五朗の瞳を捉えると、そこには愛情深いオニキスの瞳があった。
彼もまた私を見ていた。
はしたない顔をした私が彼の瞳の中に映っていた。
腰を引き寄せられると、彼の熱い一物が硬く主張してくる。
「っ!! ちょ、っと」
そのことに気が付いた私は咄嗟に離れようとするも、もちろん雪五朗はそれを許さない。
より深く、激しく私の舌を絡めとる。
息も絶え絶えになる頃には、すっかり腰砕けになっていた。
とろりとした悦びが私の背中を抜けていく。
リップ音が鳴って、私たちの唇が離れた。
つつーと甘さを孕んだ唾液が絡み合って、二人の唇の間を堕ちていく。
崩れ落ちそうになる私の身体を雪五朗はそっと抱き上げた。
突然高くなる視界に私は慌てて彼に抱き着いた。
背中に回された雪五朗の腕に力が入る。
どくんどくんと煩いくらいに鳴り響く鼓動は一体どちらのものなのか。
期待と不安に揺れながら、私たちは客室に戻っていく。
ばたん、と扉が閉まって、もう逃げ出せないのだと理解した。
畳の上に丁寧に降ろされると、すぐに雪五朗の身体が私の上に覆いかぶさる。
獰猛な獣のような瞳をした彼が目の前に迫っていた。
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