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第6章

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大吾の言葉を聞いた誠は、はっと一瞬だけ顔を強ばらせた後、しゃがむと大吾の目をしっかり見つめた。

「どうしてだ?」

その声の優しさに、大吾は全てを預けてしまいたくなった。

不器用ながらも、預けた全てを彼は温かく包み込んでくれる。
そんな気がしたからだ。

「こ、怖いんだ。部屋から出るのが。……それに、俺は部屋に居なくちゃいけねぇから」

俺が部屋から出ると哀しむ人がいる気がするから。

続く言葉は胸にしまった。
どうしてか、誠には聞かせたくなかった。

自分のことなのに、理由が分からないことが多すぎると大吾は自嘲気味に笑った。

「そうか」

それだけを告げて、誠は一度部屋を出た。
少しすると今度はお湯の張ったバケツとタオルを持って戻ってきた。

「とにかく、これで汗を拭いた方がいい。そのあと、新しい服に着替えろ。風邪、引くなよ」

部屋から出られないことを特に責められなかった大吾は、ほっと安堵の息を漏らした。

そして、誠が再び部屋から出ていくのを待って、彼の言うとおり身体を拭いた。

用意された新しい服に袖を通す。
パリッと乾いた布が地肌に触れて清々しい。

ほんわりと大吾の心が温かく色付き始めた。


「あの調子じゃ、病院にも行けねぇか」

誠の言葉が虚しく宙を舞う。

大吾がされてきたであろう仕打ちを思い、誠はぎゅっと拳を握り締めた。
何も出来ない自分が歯痒い。

しばらくして、大吾の部屋を覗いた誠は彼が再び眠りについているのを見るとそっと部屋を後にする。

大吾が部屋からも出られない状態では、誠に出来ることは限られていた。

病院に連れていくことも出来なければ、部外者である誠は警察に通報することも躊躇った。
彼らの間に何があったのかは、当の本人たちにしか分からないのだから。

故に、彼がとれた行動は一つだけだった。

つい、二日前まで住んでいたマンションに足を運んだ誠は、雪の住む部屋のインターフォンを鳴らした。

そう、誠はもう一人の当事者に会いに行ったのだ。

しかし、誠の思いとは裏腹に玄関の扉を開けたのは名前の知らない男だった。

「……澄野は?」

「寝てるよ。……大吾の件か?」

男の言葉に誠は喉を詰まらせた。

「っ、あぁ」

男は扉を閉めて外に出てきた。

「少し、散歩しねぇか?」

明るみに出てきた彼の顔は、酷くやつれているように見えた。
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