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第5章

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その日から、雪は大吾を外へ出すようになった。
窓の外に閉じ込めて、雪は眩しそうに大吾を見つめる。

透明なガラスの向こう側。
自らの手で飛べなくしたカナリヤが、心細い眼差しで部屋を出ていく飼い主を見ている。

雪はただ幸せだった。
外に出しても、大吾が飛べないと知っていたから。

だから、世界に向かって鳴いたらいい。
そうして、僕のものだと自ら世界に示していればいい。

どうせ誰も助けられやしないんだから。

そう、たかを括ったのが雪の間違いだった。
カナリヤのその綺麗な鳴き声に耳を傾ける者が現れてしまったのである。

大吾がベランダに放り出されると必ず、隣の誠は話しかけてきた。

始めは他人と話すことに怯えていた大吾も、裏表のない誠の言葉に次第に心を開いていった。

誠からはいつも煙草の香りがした。
ほろ苦いその香りは、誠が大人であることの証のように大吾には思えた。

誠は決して一線を越える話をしない。
いつも、たわいない世間話をするだけだ。

まるでそれが一番の治療法だと知っているかのように。

実際、雪に閉じ込められていた大吾の心にはそれがよく効いた。
雪解けのようにゆっくりと、けれども確実に大吾の心は、誠によって溶かされていったのだ。

そんな日々が続いたある日、珍しく雪が一人で帰ってきた。

窓を開け、大吾の首輪を引っ張り部屋へ導くと、雪は大吾の身体に腕を回した。

「大吾くん、今日は谷崎がいないんだ。意味、わかる?」

こくり、と大吾は頷く。

「そう、僕たち二人っきり。……こんなのは、久しぶりだね」

嬉しさを抑えきれず、雪は大吾の首筋に鼻を寄せた。
そのとき、すんと香った煙草の匂いに、雪は少し首を傾げた。

しかし、それ以上不思議に思うことなく、雪は大吾の身体を愛撫し始めた。
些細な疑問よりも、今目の前にある大吾という甘い果実に欲情したからだ。

雪は、誘われるがままに赤く色付く二つの乳首に舌を這わせ、指先でぴんと弾いた。

「……っ」

ぐしゃりと雪の頭を掴んで反応を示す大吾だったが、その頭は珍しく空っぽではなかった。

ここ数日、誠と会話をするようになり、最初の日に言われた言葉が繰り返し大吾の頭の中を駆け巡っていたのだ。

『本当にお前はそれで幸せなのか?』

遠慮がちに尋ねられたその声は、どこまでも他人のもので、だからこそどこまでも残酷な真実でもあった。

……俺は本当に幸せ?
繰り返し、繰り返し、問われる自らの疑問に未だ答えは出ていない。

つぷりと雪の二本の指が大吾の穴に入ってくる。
ローションなど使っていないはずなのに、ぬるぬるとそこは雪の指を容易く受け入れる。

始めは固くて、痛かったはずだ。
それが、何の抵抗も示さないようになったのはいつの頃からだろうか。

思い出せもしないのに、過去に思いを馳せ、大吾は快楽を享受した。
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