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第4章
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どうして、と目を見張る大吾。
雪は大吾から顔を背けて腰を振った。
大吾の言葉を聞きたくなかったからだ。
今の状態で大吾から少しでも自分を否定されるような言葉を聞かされると、雪は自分でも何をするか分からなかったのだ。
雪は恐れていたのだ。
谷崎が部屋に来ることを。
雪は知っていた。
谷崎が雪と同類の人間であることを。
時折見せる歪んだ笑顔は、驚くほど自分とよく似ていた。
だから、谷崎はよく雪に絡んでくるのだ。
そんな彼に大吾を見せたりしたら。
きっと谷崎は大吾を手に入れたくなる。
だって、大吾くんはこんなにも可愛いんだから。
何一つ汚れていなくて、綺麗で、純粋で、その中にぽつりとどこか後暗いものがあるような、そんな危うい雰囲気をしているんだから。
「大吾、悪いやつに連れてかれるよ」
雪は涙を一粒流して、そう呟いた。
その瞬間、大吾の手足が大きく暴れた。
驚いて雪の腰が引けると、大吾は雪のものから口を離した。
それから、罅割れた声で叫んだ。
「雪っ!!」
その瞳には、強い光が灯っていた。
それは昔の、雪が好きになった大吾の瞳だった。
途端に、雪のものが萎えていく。
僕が好きになったのは、強い大吾くんだった。
年下なのに、可愛くて強くて、羨ましかったっけ。
それなのに、僕は大吾くんを縛り付けてどうしようというのだろう。
欲望のままに抱いても、あの僕の好きな大吾くんが僕のものになるわけがなかったのに。
そんな雪の思いを汲み取ったのか、大吾は優しい声色で続ける。
「雪、とにかく手錠を外して欲しい」
雪は俯いていた顔をぱっとあげて、悲しげな顔をする。
「でも……」
「大丈夫だ。……俺は、雪から逃げない。心配なら足枷はしていてもいいから」
声を出すだけでも辛いだろうに、大吾は雪を安心させるようにそう言った。
そして、雪が大吾から手錠を外すやいなや、彼は雪をがばりと抱きしめた。
小柄な雪の身体は、大吾の中にすっぽりと入っている。
その温かさは、本当に雪が欲していたものだった。
「雪、何かあったのか?」
「……ううん、何も。……ねぇ、大吾は僕のものだよね?」
意を決してそう聞いた雪に、大吾は息を呑んだ。
雪の質問に驚いたのではない。
「僕のもの」という言葉に反応した自分の身体に驚いたのだ。
自分が雪のものだと思えば思うほど、大吾の身体は敏感になる。
今、雪に触れている全ての部分が、本当は雪に触れられているのではないかと錯覚するほどに。
この身体全てが雪のもの。
いや、身体だけじゃない。
この声も、この心も、全てが雪のものなのだ。
ぞくりと大吾の背筋に興奮が駆け抜けた。
「……そう、俺は雪のもの」
ぼんやりと焦点の合わない目で大吾は、そう呟いた。
雪は大吾から顔を背けて腰を振った。
大吾の言葉を聞きたくなかったからだ。
今の状態で大吾から少しでも自分を否定されるような言葉を聞かされると、雪は自分でも何をするか分からなかったのだ。
雪は恐れていたのだ。
谷崎が部屋に来ることを。
雪は知っていた。
谷崎が雪と同類の人間であることを。
時折見せる歪んだ笑顔は、驚くほど自分とよく似ていた。
だから、谷崎はよく雪に絡んでくるのだ。
そんな彼に大吾を見せたりしたら。
きっと谷崎は大吾を手に入れたくなる。
だって、大吾くんはこんなにも可愛いんだから。
何一つ汚れていなくて、綺麗で、純粋で、その中にぽつりとどこか後暗いものがあるような、そんな危うい雰囲気をしているんだから。
「大吾、悪いやつに連れてかれるよ」
雪は涙を一粒流して、そう呟いた。
その瞬間、大吾の手足が大きく暴れた。
驚いて雪の腰が引けると、大吾は雪のものから口を離した。
それから、罅割れた声で叫んだ。
「雪っ!!」
その瞳には、強い光が灯っていた。
それは昔の、雪が好きになった大吾の瞳だった。
途端に、雪のものが萎えていく。
僕が好きになったのは、強い大吾くんだった。
年下なのに、可愛くて強くて、羨ましかったっけ。
それなのに、僕は大吾くんを縛り付けてどうしようというのだろう。
欲望のままに抱いても、あの僕の好きな大吾くんが僕のものになるわけがなかったのに。
そんな雪の思いを汲み取ったのか、大吾は優しい声色で続ける。
「雪、とにかく手錠を外して欲しい」
雪は俯いていた顔をぱっとあげて、悲しげな顔をする。
「でも……」
「大丈夫だ。……俺は、雪から逃げない。心配なら足枷はしていてもいいから」
声を出すだけでも辛いだろうに、大吾は雪を安心させるようにそう言った。
そして、雪が大吾から手錠を外すやいなや、彼は雪をがばりと抱きしめた。
小柄な雪の身体は、大吾の中にすっぽりと入っている。
その温かさは、本当に雪が欲していたものだった。
「雪、何かあったのか?」
「……ううん、何も。……ねぇ、大吾は僕のものだよね?」
意を決してそう聞いた雪に、大吾は息を呑んだ。
雪の質問に驚いたのではない。
「僕のもの」という言葉に反応した自分の身体に驚いたのだ。
自分が雪のものだと思えば思うほど、大吾の身体は敏感になる。
今、雪に触れている全ての部分が、本当は雪に触れられているのではないかと錯覚するほどに。
この身体全てが雪のもの。
いや、身体だけじゃない。
この声も、この心も、全てが雪のものなのだ。
ぞくりと大吾の背筋に興奮が駆け抜けた。
「……そう、俺は雪のもの」
ぼんやりと焦点の合わない目で大吾は、そう呟いた。
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