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Side Story ; His

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「クレオたちを探すぞ」

朝日と共に目を覚ますとリーンハルトはいの一番にそう言った。

早速、彼は外の世界での目的を見つけたようだ。

俺はこの人の手駒だから。
彼の目的は俺の目的でもあった。

毎夜、俺たちは変わらず互いのものを慰め合った。
だが、一線は超えない。

それが俺たちの関係を的確に示す答えだった。

空き家を転々としながら数週間が経った頃のことだ。

その日、リーンハルトは食料調達の為に家を空けていた。
俺は一人で彼の帰りを待っていた。

太陽が陰り、雲が空を暗く覆った。
朧げに不安を覚えた俺は部屋の隅で小さく丸まっていた。

低気圧特有の頭痛に悩まされながら、うとうとしていた俺は数人の足音で目を覚ました。
がやがやと誰かが部屋に入ってきていた。

「おいおい、本当にこんな所に獲物がいるのかよ」
「昨日の深夜に二人組がやってきたのを見たから間違いねぇ」

「男は外出している。残された女を美味しくいただこうってわけだ」

俺は声を押し殺した。
なぜか女と間違われているが、俺が男だからと見逃してくれるとは思えない。

奴らの狙いは俺だ。

震える身体をきつく抱き寄せ、集団が去るのをじっと待っていた。

しかし、祈りも虚しく奴らは俺を見つけたのだった。

大きな影がいくつも俺の上に重なる。
初手で顔を殴られ、俺は抵抗する気力を失わされた。

小さな俺の身体は最も容易く組み敷かれる。

涙が溢れた。

痛みと愛のない乱雑な愛撫に吐き気がした。
男たちの荒い呼吸で耳が腐りそうだ。

ただ耐えた。
身体中を這い回る手や唇を出来るだけ意識しないようにしていた。

服を脱がされ、全身を隈なく凝視される。
顔を背け、瞼を閉じた。

これは全部夢だ。
いつか覚める悪夢に違いない。

不思議なほど声は出なかった。
リーンハルトの姿を脳裏に思い浮かべるも、彼が俺を助ける確証がどこにもなかったからだ。

俺は静かに残酷な運命を受け入れようとしていた。
男たちに嬲られるという屈辱的な未来を。

俺に馬乗りになっている男の、赤黒く勃起したグロテスクなそれを目にして俺は顔を歪めた。

あぁ、もう駄目だ――――。

犯される覚悟を決めた次の瞬間、男たちが壁にぶっ飛ばされた。

ぽかんと顔を上げる俺の前には、リーンハルトの大きな背中があった。

彼は男たち全員に殴りかかっていった。
返り血を浴びた横顔には一つも感情が浮かんでいなかった。

気がつけば辺り一面に男たちが伸びていた。
ひゅーひゅーと喉の潰れた音が鳴るばかりで、あとは一本の指すら動かないようだった。

リーンハルトが俺を助け起こす。

身体の傷を丁寧に確認すると、彼は言う。
どこか寂しげな声に聞こえたのは俺の願望なのだろう。

「なぜ、俺に助けを求めない」

榛色の瞳が怒りを孕んでいた。

「あのまま俺が助けなかったらどうなるか分かっていたのか!」

怒鳴られて肩を竦める。
すると、リーンハルトは俺の身体を横抱きにして、二階へと上がっていった。

その日、彼は怒りながら俺の初めてを奪った。

男たちに触れられ、傷つけられた皮膚全てにリーンハルトの歯型がつけられた。
痛みを感じながらも、俺の心と身体は満たされていった。

「本当はこうされたかったんだろ!」

リーンハルトから受ける痛みなど全て快楽に変わるというのに、彼は痛みに俺が反応しているのを見ると酷く怒るのだ。

こんな身体にしたのはリーンハルトのはずなのに。
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