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I miss you.
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手早く身支度を整えたリーンハルトに連れられて、倉庫内の会議室に通される。
中央には大きなテーブルが配置され、その上に地図が広げられていた。
どうやらこの周辺の地図らしい。
細かく書き込まれているところを見るに、かなり詳細な情報が含まれた貴重な資料なのだろう。
「外部の俺に見せてもいいのか?」
「クレオの無事には変えられないからな。それに、これくらいしか俺は弟にしてあげられることがないから」
リーンハルトの中で既にクレオの存在は過去のものとなっていた。
パウルの存在がリーンハルトを変化させたことは明白だった。
彼らもまた長い時間を共に過ごしてきたのだから、当然の結果なのかもしれない。
「クレオがここにいないということは、革命軍に連れ去られたってことだ。この辺りに大きな拠点を構えているのはうちとここしかないからな。そして誰かを誘拐する、なんて人的コストがかかることをするのはいつだって巨大な組織だと相場が決まっている。他は今日を生き抜くことで精一杯のはずだ」
リーンハルトが人差し指を地図の上に置く。
彼が指し示したのは森の中だった。
「俺たちは誰もいない場所を見つけたと思ったんだがな」
俺の言葉にリーンハルトが肩を竦めた。
「クレオたちに見つからないように少しずつ慎重に拠点を移してきたんだろう。俺たちと同じように。見つけるまでこんなにも長い時間がかかったのも、見つかったが最後連れ去るのに時間がかからなかったのも、それが理由だ」
大して頭の良くない俺にも分かりやすく説明をする姿はまさしく元王族といったところか。
本人としては不本意だろうが、為政者の素質を感じた。
俺は俺に出来ないことをする奴を好ましく思う。
その点において、目の前の男は紛れもなくクレオの兄なのだった。
「貴重な情報をありがとう。早くクレオを助けてやらねぇと」
「いや、まだだ。革命軍の目的はクレオを王に掲げることだ。今頃、丁重におもてなしされているだろう。助けるにしても、どうせなら同じ方法で意趣返ししてやるのはどうだ?」
ちろりとリーンハルトの赤い舌が唇の隙間から覗いている。
蠱惑的な仕草に少し戸惑いながらも、話の詳細を促した。
「同じ方法、とは?」
「革命軍が果てなき王国に仕掛けた罠のことだ。城壁に隙間を開け、アンデッドたちを誘導する杜撰で幼稚な罠だよ」
ふん、とリーンハルトは鼻で笑った。心底不愉快であったとその表情は物語っている。
「まぁ幸いなことに、革命軍の拠点は見つからないことに重点を置いた作りになっているから大した防壁も築いていない。いとも簡単にアンデッドたちの餌食になるだろう。攻め込むことは考えても、攻め込まれることは考えていない時点で三流な奴らだな」
鶴の一声とは正にこのことで、すぐにリーンハルトの方針に沿って皆が動き始めた。
アンデッドの捕獲、革命軍基地までの誘導に数ヶ月かかってしまったが何とか無事に計画は遂行された。
その間、俺はクレオが心配だった。
同時にクレオのことを信頼もしていた。
確かに俺たちはずっと一緒にいたし、共依存的な関係でもあると思う。
だが、十三年間という時間をかけてゆっくり俺たちは自我を確立していったのもまた事実だ。
二人きりであったからこそ、誰にも邪魔されることなく、環境に振り回されることなく、俺たちは生きてきた。
子どもの頃の反動で自由を切望していた俺たちだったからこそ、その変化は顕著だった。
一方で、最近のクレオは少しあの頃の彼に戻っているようで少し気掛かりでもある。
クレオが過去の忌まわしい苦しみに囚われて俺の隣に戻ってこられなくなる可能性はあるだろう。
その場合は俺が全力でクレオを引き戻すがな。
だが、そんな俺の自信は軟禁されていたクレオを見た瞬間に粉々に打ち砕かれたのだった。
中央には大きなテーブルが配置され、その上に地図が広げられていた。
どうやらこの周辺の地図らしい。
細かく書き込まれているところを見るに、かなり詳細な情報が含まれた貴重な資料なのだろう。
「外部の俺に見せてもいいのか?」
「クレオの無事には変えられないからな。それに、これくらいしか俺は弟にしてあげられることがないから」
リーンハルトの中で既にクレオの存在は過去のものとなっていた。
パウルの存在がリーンハルトを変化させたことは明白だった。
彼らもまた長い時間を共に過ごしてきたのだから、当然の結果なのかもしれない。
「クレオがここにいないということは、革命軍に連れ去られたってことだ。この辺りに大きな拠点を構えているのはうちとここしかないからな。そして誰かを誘拐する、なんて人的コストがかかることをするのはいつだって巨大な組織だと相場が決まっている。他は今日を生き抜くことで精一杯のはずだ」
リーンハルトが人差し指を地図の上に置く。
彼が指し示したのは森の中だった。
「俺たちは誰もいない場所を見つけたと思ったんだがな」
俺の言葉にリーンハルトが肩を竦めた。
「クレオたちに見つからないように少しずつ慎重に拠点を移してきたんだろう。俺たちと同じように。見つけるまでこんなにも長い時間がかかったのも、見つかったが最後連れ去るのに時間がかからなかったのも、それが理由だ」
大して頭の良くない俺にも分かりやすく説明をする姿はまさしく元王族といったところか。
本人としては不本意だろうが、為政者の素質を感じた。
俺は俺に出来ないことをする奴を好ましく思う。
その点において、目の前の男は紛れもなくクレオの兄なのだった。
「貴重な情報をありがとう。早くクレオを助けてやらねぇと」
「いや、まだだ。革命軍の目的はクレオを王に掲げることだ。今頃、丁重におもてなしされているだろう。助けるにしても、どうせなら同じ方法で意趣返ししてやるのはどうだ?」
ちろりとリーンハルトの赤い舌が唇の隙間から覗いている。
蠱惑的な仕草に少し戸惑いながらも、話の詳細を促した。
「同じ方法、とは?」
「革命軍が果てなき王国に仕掛けた罠のことだ。城壁に隙間を開け、アンデッドたちを誘導する杜撰で幼稚な罠だよ」
ふん、とリーンハルトは鼻で笑った。心底不愉快であったとその表情は物語っている。
「まぁ幸いなことに、革命軍の拠点は見つからないことに重点を置いた作りになっているから大した防壁も築いていない。いとも簡単にアンデッドたちの餌食になるだろう。攻め込むことは考えても、攻め込まれることは考えていない時点で三流な奴らだな」
鶴の一声とは正にこのことで、すぐにリーンハルトの方針に沿って皆が動き始めた。
アンデッドの捕獲、革命軍基地までの誘導に数ヶ月かかってしまったが何とか無事に計画は遂行された。
その間、俺はクレオが心配だった。
同時にクレオのことを信頼もしていた。
確かに俺たちはずっと一緒にいたし、共依存的な関係でもあると思う。
だが、十三年間という時間をかけてゆっくり俺たちは自我を確立していったのもまた事実だ。
二人きりであったからこそ、誰にも邪魔されることなく、環境に振り回されることなく、俺たちは生きてきた。
子どもの頃の反動で自由を切望していた俺たちだったからこそ、その変化は顕著だった。
一方で、最近のクレオは少しあの頃の彼に戻っているようで少し気掛かりでもある。
クレオが過去の忌まわしい苦しみに囚われて俺の隣に戻ってこられなくなる可能性はあるだろう。
その場合は俺が全力でクレオを引き戻すがな。
だが、そんな俺の自信は軟禁されていたクレオを見た瞬間に粉々に打ち砕かれたのだった。
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