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Corrupt Kingdom

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「さぁ着きましたよ、国王」

誰かに身体を揺すられて私は瞼を開けた。

さまざまと浮かび上がっていた過去の忌まわしくも幸福な記憶は現実の向こうに霞んで消えていった。

そこで私は違和感を覚えた。

「……ちょっと待ってください。国王とは、どういうことですか? ……あなたたちは果てなき王国の近衛兵ではないのですか?」

私の戸惑いに彼らもまた困惑している様子だった。

そのとき車内の窓が開き、ひとりの青年が顔を出した。
彼の青い瞳の中には好奇心と知性が程よく煌めいていた。

彼はにこりと笑い、私に話しかける。

「初めまして、国王クレオ様。俺は革命軍長のピーター、貴方を新しい果てなき王国の父とするべく御迎えに参りました」

流れるように綺麗な騎士の敬礼を見せ、ピーターと名乗った青年は車の扉を開ける。
それから、恭しく私に向かって手を差し出したのだ。

仕草こそ違えど、誰もが好感を抱くような笑顔や明るい好奇心に満たされた瞳、それに小麦色をした髪が昔のゴードンに少しだけ似ていた。

だからだろうか。
気付けば私は彼の手を取っていた。

私自身、自分を試してみたかったのかもしれない。

ゴードンと二人きりの生活が十三年間続いて、それは本当に幸せな毎日だったけれど、相手がゴードンでなければならない理由にはなっていないような気がした。

彼がたまたま私を救い、彼がたまたま私を愛し、彼がたまたま私の罠にかかったから。
それだけの関係なのかもしれない。

彼がゴードンである必要はあったのだろうか。
私の不幸にゴードンを巻き込む必要は本当にあったのだろうか。

こうしてピーターに革命軍の拠点まで導かれながら、私の思考はぐるぐると同じところを回っていたのだった。

つまり、彼は私といて幸せだったのだろうか――。
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