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Corrupt Kingdom

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「俺と家族になってくれないか」

いつだって欲しい言葉をくれるのはゴードンの方なのだ。
私はそっと頷いて、彼の震える瞼に唇を落とした。

この人は私だけのものだ。
決して誰にも渡しはしない。奪わせもしない。

例え強大な王国の闇が差し迫っていたとしても、必ず二人で逃げ延びるのだ。

濁流のような激情が私を呑み込み、強烈な独占欲に心が支配される。
それはどこまでも私が王族の血筋であることを証明していた。

苦虫を噛んだ気持ちでそれでも、と思う。

それでも彼が欲しいのなら。
どうしたって欲しいと思ってしまうのなら。

私は憎い血を甘んじて受け入れよう。
そうして絶えず自分を呪いながら、彼の手を取ろう。

彼がいつか私を必要としなくなる、その日までは。

だから、ゴードン。

ごめんなさい。
こんな私で、ごめんなさい。

貴方を地獄に引き摺り下ろしてしまう私でごめんなさい。

貴方を愛してしまって、貴方に愛されてしまってごめんなさい。

貴方の優しさに漬け込んで、ごめんなさい。

私の葛藤に気づかない鈍感なヒーローは口付けに嬉しそうに笑っている。

どうかこのまま、何も気付かないでいて。
私の心の闇になど、絡め囚われてしまわないように。

彼もまた私の瞼に口づけを返し、声を潜めて言う。

「あぁ、幸せだなぁ」

あぁ、なんて可哀想な人なのだろう。

私は彼を抱き締めた。
私から逃げられないように。

「あと数時間で夜も明けるだろう。それまでにこの国を逃げ出そう。城壁の外に俺たちだけの秘密基地を作るんだ。楽しみだろう?」

ゴードンが白い歯を見せて笑う。
私はそれをまじまじと見ていた。

「そうだな。家に帰って荷物を取ってくるから、待ち合わせは一時間後にしよう。いつもの秘密基地だ。クレオは何も用意しなくていい、俺が全部準備してあるから。そのまま秘密基地で待っているだけだ。分かったかい?」

私は首を縦に振った。
そうして、彼は約束通り私を腐敗した王国から連れ出してくれたのだ。

まだアンデッドの存在すら知らなかった少年の頃の話だ。

だから、私には分かっていた。

どうしてゴードンがミレイを助けに行ったのか。
もっともらしい理由で誤魔化した彼は知らないのだ。

私が彼の妹の姿を知っていることも、彼女の死ぬその瞬間を目にしていることも。
ミレイが彼の妹に似ていると分かっていることも。

何故ならそれだけは彼に絶対に知られたくない過去であったのだから。
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