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Corrupt Kingdom

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痛む全身をよろよろと立ち上がらせて、私は庭園へと向かった。

夜も随分と更けており、いつ父親が部屋を訪れるか分からない。

時間がない。
急がなくては。

夜の薄明かりの中、青い花畑が浮かび上がっている。

そこが庭園だった。
亡き王妃の為に彼女が愛した蒼き花の庭園を国王が造らせた。

この美談に魅せられ、国王を支持している民も多いという。
蒼き花に猛毒があるなど露知らず。

私の母親は蒼き花を喰らい、自死したのだ。

自室に残された私宛の手紙にそのことが書かれていた。

辛い日々だった。
国王に無理強いされる毎日、誰も助けには来てくれなかった。

赤子を置いて死んでしまう私を、一人で楽になってしまう私をどうか許して欲しい。

――手紙にはそういった旨が記されていた。大凡、私と同じような境遇だったのだと推測出来る。

同情はしない。

赤子の未来がどうなるか分かっていて、私を置いて行った彼女が加害者でないとどうして思えるのだろう。
愛されていた、とどうして思えるのだろう。

どうせ置いていくのなら、何も貴女に似た姿で産まなくても良かった。
どうせ勝手に死ぬのなら、私も一緒に連れて行って欲しかった。

地獄に連れてきて、あとは知らんぷりだなんて、あまりにも残酷ではないか。

――――そんなにも、私の存在は忌み嫌われるものだったのでしょうか。

私は私を見捨てた母親とは違う。

どんな地獄にも耐え抜いて、誰か愛し愛される人を見つけて、ささやかな幸せを、陽だまりに微睡みながら見る夢のような幸福を、必ず掴み取るのだ。

そう信じて生きてきた、のに。

最も容易く彼らは奪っていく。

そんな未来など到底叶いやしないと呆気なく壊してしまうのだ。
私の愛する者の幸せさえも。

彼らにとって、それは引き金にかけた指にほんの少しの力を加えるだけの行為だった。

私にとっては、希望に繋がっていた細い糸が切れたことを示すのに。
いいや、それだけではない。

ゴードンの家族を死なせた罪に私はついぞ耐えられなかったのだ。

そんなことを知られれば嫌われてしまうじゃないか。
私を初めて愛してくれるかもしれない存在に、嫌われてしまう――――。

そう、私はどこまでも利己的な人間で。
それは見事に私が嫌う王族の本質そのものだった。

父親に、母親に、よく似た自己愛の成れの果てだった。
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