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School Days

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私はゴードンのような人間に側にいて欲しかったのだろう。
これが、本当の意味で私が彼を欲した瞬間だった。

私は瞳を瞬きながら問う。
狡猾にも張り巡らせた罠のことを悟られないように、無害な子どものふりをした。

「責任ってどう取るつもりなのですか? ……なんでもしてくれるとでも?」

彼はぎゅっと私を抱きしめた。
私は、彼の玩具箱の一番底に眠っている大切でお気に入りのぬいぐるみになった気分だった。

「あぁ、そうだ。母さんが言ってたんだ。大事にするってのは、ずっと一緒にいるってことだって。だから俺はお前のそばに一生いなきゃいけなくなった」

へへっと笑う彼が愛おしくて、私はそっとその胸に顔を埋めた。

「決して、決して、離れないでくださいね」
「あぁ、任せろって」

無責任な子どもじみた約束だった。
だけど彼がそう言うのなら、そんな未来がまるまる実現できてしまえる気がした。

彼の胸の中であのとき、私は誓った。
ただのいじめっ子に負けている場合ではない、と。

私に因縁をつけてきたガキ大将よりももっと強大かつ凶悪な相手はいるのだから。
私たちを引き離すためならなんだってやってのけてしまえる、そんな大人たちが。

そのあと、ゴードンに気付かれることなく私はいじめっ子に制裁を与えた。

落とし穴を作ったのだ。
泥水や害虫をたっぷりと含んだ落とし穴を。

私は主犯格の彼を誘い出した。
彼が言ったのだ。私が女みたいだ、と。

ならばそれを思う存分活用してあげようではないか。

「話したいことがあります。人の目は避けなければならないお話です。ついてきてくれますか?」

私は潤んだ瞳で彼を見つめ、その手をそっと握った。

こくん、と頷いた彼の瞳にはほんの少し欲情が滾っていた。
もちろん、私はそれを見逃さなかった。

深い森の奥に誘い込み、私は落とし穴のある大木の裏に回り込む。

「そこで待っていてください。私が出てくるまでそこにいてください。必ず、ですよ。覗いてはいけません。……恥ずかしいですから」

あとは簡単だった。
衣擦れの音を出して彼が近づいてくるのを待つだけなのだから。

私の思惑通り、彼はゆっくりと近付いて、それから落とし穴にひっかかった。

彼が底まで落ちたことを見届け、私は穴の上から無様なその姿を見下ろした。

「な、なぁ頼むよ。俺が悪かった。もう二度とあんなことはしない。……助けてくれ」

私はそのまま彼をそこに置き去りにした。
今は名前すら思い出せやしない、かつてのいじめっ子を。
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