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その間にも、クレオは横からミレイの瞳孔や腕の断面を懐中電灯で確認している。

「特に第一形態の様子も見られませんし、傷口にも腐敗はありません。感染が全身に回る前に切断できたと考えていいでしょう」

クレオの言葉にメリッサが安堵の表情を浮かべた。

「当たり前だろ。この俺が応急処置を行ったんだから」
「そうですね。そういうことにしておきましょうか。……先程の爆発で付近にいるアンデッドたちが集まってくるのも時間の問題です。早いところここを立ち去った方がいいでしょう」

クレオはそう告げると、俺たちのバイクの元に向かっていった。
その後ろ姿を見ながら、メリッサが俺に向かって言う。

「良いパートナーじゃん」
「まぁな」

俺は誇らしく笑って、それからミレイを担いだ。

「君たちもな。おぶって帰るのは無理だろう。餞別に俺の相棒のバイクをあげよう」
「え?」
「ミレイを乗せたら、バイクを押して帰ればいい」

帰り道の護衛を申し出ようかとも考えたが、拠点を人間に知られることほどこの世界において怖いものはないからな。

出会ったばかりの俺たちに出来ることはあまりにも少ない。

「それでいいか?」

俺の気遣いに気が付いているであろうメリッサは頼もしい笑顔でこう言ってのけた。

「あたし、こう見えて強いから大丈夫よ」

彼女の言葉を聞いていたクレオは、自身の愛車の荷物台に腰掛けている。

「それならば、先に私たちがここを出ましょう。幸い、爆弾を持ってきています。爆発音で近くのアンデッドたちをできる限り呼び寄せながら、バイクを走らせれば貴女たちも比較的安全に帰路に着けるでしょう」

クレオの発想に俺の瞳は輝いた。

「おぉ! 天才だな、クレオ」

俺がクレオの頭をよしよしと撫でると何故かむすっと不機嫌な顔をしていた。
それを見たメリッサが堪らず笑顔になった。

「あはは。そうして貰えると助かるわ。ほんとうにありがとう。こんな時代だもん。お互いに後悔しないように生きましょうね」

クレオは何も言わず、ただ静かに俺が前に座るのを待っていた。

クレオのもとへ一歩を踏み出そうとするも、メリッサが俺の腕を掴んだ。
それから、彼女は精一杯に背伸びをして俺の耳に口を寄せてくる。
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