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Shopping Mall

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爆音と爆風と青空の中を駆けて、数十分。
俺は目当ての場所に辿り着いた。

途中で道端のアンデッドたちに絡まれたおかげで、今日も俺の相棒は元気に腐った肉片を浴びてやがる。
全く、手入れするのは誰だと思っているんだか。

皮の手袋を着けた指先でピッと肉片の一部を取っ払う。

「クレオ並に世話が焼ける奴だな、相棒」

俺はウエストポーチから双眼鏡を取りだし、ショッピングモール内を見える範囲で確認する。
視認した限りでは、クレオのトラップが作動した様子も大群のアンデッドたちがいる気配もなかった。

調達用にあらかじめ空にしておいた大容量リュックサックを肩にかけて、俺はショッピングモールのエントランスに足を踏み入れたのだった。

ジャリジャリと硝子の破片を踏み砕きながら薄暗いモール内を懐中電灯で照らす。
食糧品や武器に再利用できそうなものなど必需品を中心にあらかた収集を終えた。

そのあとに向かうのは衣料品店だった。
今朝のクレオの様子を思い出したのが理由ではないし、もう少し清潔な布を着せてやりたいと思った訳でもない。決して。

ショーウィンドウの埃を雑に手で払いながら、一店舗ずつ見ていくと、ふとクレオに似合いそうなワンピースを見つけた。

総レースであしらわれた紺色のワンピースはどことなく色香が漂っている。
女物であることは間違いないが、クレオの銀の長髪によく映えると思った。

ショーウィンドウの硝子を割り、マネキンからワンピースをゆっくりと剥がしていく。
クレオがこれを着ている姿を想像し、ごくりと生唾を飲み込んだ。

いやいやと首を振り、一瞬ワンピースをもとに戻そうと思ったものの、結局そっとリュックにしまった。

また女物を持ってきてと怒られるだろう。
着てもらえないだろう。

だが、プレゼントはプレゼントである。
それ以上の他意はない。……はずだ。

似合うと思うから渡すのである。
そのあとどうするかはクレオ次第だ。

すげなく断られるのもまた俺たちらしいだろう。

ごほんと咳払いを一つしたとき、がさりと背後から物音がした。

アンデッドの残党かと思い、俺は俊敏に振り返った。

懐中電灯で辺りを照らしながら、音のした向かいの店へと近づく。
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