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Golden Wheat Field

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アンデッド特有の腐敗臭が鼻につき、もうお終いだと悟ったそのとき、思い描いていた金髪の彼が現れた。
ただし、理想とは少し違う姿で。

「クレオに近づくんじゃあねぇ!」

群がるアンデッドたちをいとも簡単に薙ぎ倒したゴードンは、森の中で佇む私に駆け寄ってきた。

ずっと追いかけて来てくれたのだろう。
汗は額から流れ落ち、息も荒い様子だった。

「大丈夫か」

本気で心配している顔をしていた。

全てが理想通りであった。
似合わない女装姿のゴードンであること以外は。
それもお化粧までして。

「大丈夫じゃないのはあなたの方です」

笑いで震える声をなんとか咳払いで誤魔化す。
しかし、私の冷静さをぶっ壊してしまうほどに衝撃的な花柄のワンピースの裾が目に入る。

「ふふっ、似合ってないです、ね……あははっ」

思わず声が漏れてしまったのも致し方ないと思う。
私の笑顔に彼が優しく笑い返す。
耳朶に熱が集まってくるのが分かった。

「ようやく笑ってくれた」

ゴードンは真夏の向日葵のように無邪気な笑顔でそう言った。

「傷つけて、ごめん」

ゴードンの犬耳が垂れ下がっている。
もちろん、幻覚である。

「それでも、やっぱり俺はクレオにこの洋服を着て欲しい。だってこの世で一番似合うのだから。女になって欲しいわけじゃあない。クレオに似合うと思うから着て欲しいだけなんだ。でも、そんな軽い気持ちがクレオを傷付けてしまうのには耐えられねぇ。だから、だから!」

意を決した彼の瞳が私を射抜く。
その真摯な眼差しを私の心は大層好ましく思っているみたいだった。

「俺も女物のスカートを履く! 一緒に女装姿でこの世界を生きていこう!」

自信満々な表情でそんなことを言ってのけた。

「そうですねぇ。それなら私も少しは怖くなくなるかもしれませんね」

呆れたように笑った。
それが私が彼を許したことの何よりの証明だった。
ゴードンの瞳がきらりと期待に光る。

「それじゃあ!」
「いや、絶対に着たりはしませんけれども」

がっくりとゴードンの両肩が下がった。
いつだってこんな調子なのだ、私と彼は。


その数ヶ月後、拠点となる今の家を見つけた。
真冬のことだった。

家は広大な大地の中にぽつねんと建っていた。
元は農家のものだったのだろう。
畑に必要な道具の全てが置いてあった。

「小麦畑にでもしましょうか」

私の呟きにゴードンが喜んだ。

「おぉ! 偉いな、クレオは。そうしよう!」

彼の厚い掌が私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
彼はいつだって真っ直ぐに私を褒めるのだ。
それが少しだけくすぐったい。

「やめてくださいよ」

私の反論など一向に聞こえていないようで、彼の目はただ前だけを見つめていた。

「春にはきっと小麦畑が綺麗に見えるさ」

その横顔に少しだけ見惚れてしまったのは永遠の秘密である。
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