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鏡夜の部屋から出た私を待ち構えていたのは、彼の弟だった。
彼は、壁に背をもたれさせ、腕を組んでいた。
「洋介くん……」
慌てて私は、乱れている服を整えた。
その様子を見て、洋介くんは顔を歪ませた。
「もう、やめろよ」
彼の声がどことなく苦しそうで、私は思わず駆け寄った。
泣いているんじゃないかと心配になった私が彼の頬に手を添えると、その上から彼の大きな手のひらがそっと包み込む。
そのまま、彼は私の手の内側へキスを落とす。
ちらりとこちらを覗く流し目が思いの外官能的で、私の鼓動が早まった。
トクトクと刻まれるこの音が、彼にも聞こえているんじゃないかと思うと恥ずかしくなって俯いてしまう。
私より幾つか年下の洋介くんは、私とよく似た境遇をしていた。
彼の母もまた、本郷家当主の愛人だったのだ。
だからだろうか。
私たちは互いを同情することで、自らの心を慰めていた。
そこに恋愛のような甘い感情は何一つなかった。
洋介くんが私に執着しているのも、私が彼よりも酷い扱いを受けているからに過ぎない。
可哀想な私に、彼は惹かれているだけだ。
そしてまた、そんな彼を私は可哀想だと思うのだ。
そんな私たちの関係は、歪んでいるのだろう。
もしかしたら、鏡夜と私との関係よりももっとずっと醜く残酷なのかもしれない。
洋介くんは私の手首をぎゅっと握ると、
「娼婦の真似事なんて、やめろよ……」
とても切ない声色でそう言うので、私は錯覚してしまいそうになる。
彼は私を愛しているの? なんて。
馬鹿げた理想だ。
私を愛してくれる人などこの世にはいない。
そう思い知らされるのは、鏡夜の部屋の扉が少し開いていることを知っているからか。
恐らく、鏡夜は私たちのやり取りを盗み見ている。
そして、酷く下品な笑顔で見下しているのだろう。
その視線を嫌でも背中に感じてしまうから。
私にはどこにも居場所がないのだと絶望する。
「洋介とよろしくやってるんだって?」
私を抱きながら、そんなことを言うのは鏡夜しかいない。
「関係ないでしょ……」
私がそう言うと、彼は私の中に挿れたまま、私の身体をくるりと反転させる。
「きゃ……あっ」
不意におとずれる甘美な刺激に、私の腰は反応してしまう。
「関係ないことないだろ。あいつとお前の間に何かがあったら、俺と美織の結婚はなくなるんだからよ」
鏡夜は私の恥骨に舌を這わしながら、私の胸を両手で揉みしだく。
その手の力はいつもより強く、彼が怒っているのが分かる。
そのくせ、私の腰周りを舐める舌はどことなく優しい気がするから厄介な男だ。
「んぅ、大丈夫よ。洋介くんとは、そんなんじゃないから。そのことは、あなたが一番分かってるでしょ」
その途端ぐいと腰が寄せられて、彼の硬い胸板が背中に当たるのを感じた。
べっとりと密着した私たちの身体は、お互いの汗で湿っぽかった。
「っ! ちょっと!」
より深く私の中に入ってきた鏡夜のものを私は拒めなかった。
毎日、彼に犯され続けている私の身体は驚くほど彼のそれとよく馴染んでいた。
彼は私の耳を甘噛みした後、ぴちゃぴちゃと音を立てて耳の中を蹂躙する。
「この身体に分からせないといけないな」
低く掠れた声で彼は続けた。
「お前が誰のものかを……」
くっと鼻で笑う音が頭上で聞こえたかと思うと、次の瞬間私は鋭く貫かれていた。
脳天まで駆け抜ける衝撃に、私の目はチカチカと眩む。
気を失いそうになる私の頬をつねって、彼は私を現実に戻させる。
「おい、寝るんじゃねぇ。これからが本番だ」
にやりと笑う目の前の男は、まさに獣のような瞳をしていた。
どこまでも、どこまでも。
囚われているかのような感覚と共に、私は意識を手放した。
彼は、壁に背をもたれさせ、腕を組んでいた。
「洋介くん……」
慌てて私は、乱れている服を整えた。
その様子を見て、洋介くんは顔を歪ませた。
「もう、やめろよ」
彼の声がどことなく苦しそうで、私は思わず駆け寄った。
泣いているんじゃないかと心配になった私が彼の頬に手を添えると、その上から彼の大きな手のひらがそっと包み込む。
そのまま、彼は私の手の内側へキスを落とす。
ちらりとこちらを覗く流し目が思いの外官能的で、私の鼓動が早まった。
トクトクと刻まれるこの音が、彼にも聞こえているんじゃないかと思うと恥ずかしくなって俯いてしまう。
私より幾つか年下の洋介くんは、私とよく似た境遇をしていた。
彼の母もまた、本郷家当主の愛人だったのだ。
だからだろうか。
私たちは互いを同情することで、自らの心を慰めていた。
そこに恋愛のような甘い感情は何一つなかった。
洋介くんが私に執着しているのも、私が彼よりも酷い扱いを受けているからに過ぎない。
可哀想な私に、彼は惹かれているだけだ。
そしてまた、そんな彼を私は可哀想だと思うのだ。
そんな私たちの関係は、歪んでいるのだろう。
もしかしたら、鏡夜と私との関係よりももっとずっと醜く残酷なのかもしれない。
洋介くんは私の手首をぎゅっと握ると、
「娼婦の真似事なんて、やめろよ……」
とても切ない声色でそう言うので、私は錯覚してしまいそうになる。
彼は私を愛しているの? なんて。
馬鹿げた理想だ。
私を愛してくれる人などこの世にはいない。
そう思い知らされるのは、鏡夜の部屋の扉が少し開いていることを知っているからか。
恐らく、鏡夜は私たちのやり取りを盗み見ている。
そして、酷く下品な笑顔で見下しているのだろう。
その視線を嫌でも背中に感じてしまうから。
私にはどこにも居場所がないのだと絶望する。
「洋介とよろしくやってるんだって?」
私を抱きながら、そんなことを言うのは鏡夜しかいない。
「関係ないでしょ……」
私がそう言うと、彼は私の中に挿れたまま、私の身体をくるりと反転させる。
「きゃ……あっ」
不意におとずれる甘美な刺激に、私の腰は反応してしまう。
「関係ないことないだろ。あいつとお前の間に何かがあったら、俺と美織の結婚はなくなるんだからよ」
鏡夜は私の恥骨に舌を這わしながら、私の胸を両手で揉みしだく。
その手の力はいつもより強く、彼が怒っているのが分かる。
そのくせ、私の腰周りを舐める舌はどことなく優しい気がするから厄介な男だ。
「んぅ、大丈夫よ。洋介くんとは、そんなんじゃないから。そのことは、あなたが一番分かってるでしょ」
その途端ぐいと腰が寄せられて、彼の硬い胸板が背中に当たるのを感じた。
べっとりと密着した私たちの身体は、お互いの汗で湿っぽかった。
「っ! ちょっと!」
より深く私の中に入ってきた鏡夜のものを私は拒めなかった。
毎日、彼に犯され続けている私の身体は驚くほど彼のそれとよく馴染んでいた。
彼は私の耳を甘噛みした後、ぴちゃぴちゃと音を立てて耳の中を蹂躙する。
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