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「みなみちゃん」
懐かしい声が聞こえて、遅すぎる哀しみに打ちひしがれていた私は顔を上げた。
そこには十年ぶりに見る二つの顔があった。
「ひ、久しぶり」
「……みなみのお婆ちゃんが亡くなったって聞いて……」
ぎこちないその声は、きっとお婆ちゃんからの最後の贈り物だったのかもしれない。
「夕花、陽太……」
無くしたくない、もう二度と。
ふいにそんな風に思った。
思ってから気が付いた。
私は一体「何」を無くしたくないのだろう。
それは、この言葉に出来ない胸の温かさなのかもしれない。
それは、喪失感、絶望感、虚無感、その全ての中から確かに湧き上がる新たな希望の光なのかもしれない。
もしかしたら、この世界の全てかも。
堪えようのない「何か」が溢れてきて、私たちは年甲斐もなく泣き喚いた。
大人になった男女三人が向かい合って海辺で泣いている様子は一体どれほど滑稽だったろうか。
そうしてこの日、私たち三人は、十年ぶりの再会を果たした。
それがどんな結末を迎えるのかは分からない。
でも、泣きながらも確かに感じたのだ。
もう一度。いや、何度でも。
「また、やり直そうよ。三人で」
涙声で話す陽太の言葉が私たちみんなの思いだった。
友情も、恋愛も、家族愛をも超えたその先に、見えるものは一体何だろう。
海辺に臨むバルコニーで私はいつものように読書を嗜む。
紅茶を一口啜って、ページを捲ったところで、私の名を呼ぶ声がした。
「みなみちゃーん、ご飯出来たよー」
「早くしないと全部食っちまうからなぁ」
私は読んでいた本に栞を挟むと、テーブルの上にそれを置いて座っていた椅子から立ち上がる。
「今、行くわ」
部屋の中に入る前、海風が私を追い越した。
私は振り返って、綺麗な海の景色を垣間見る。
雲一つない快晴な空の下、海はまるでそうあることが当たり前であるかのように、何のためらいもなく煌めいていた。
その煌めきを、私はもう眩しいとは思わないだろう。
もう一度流れてきた海風は、どこか懐かしくて優しい潮の香りがしていた。
懐かしい声が聞こえて、遅すぎる哀しみに打ちひしがれていた私は顔を上げた。
そこには十年ぶりに見る二つの顔があった。
「ひ、久しぶり」
「……みなみのお婆ちゃんが亡くなったって聞いて……」
ぎこちないその声は、きっとお婆ちゃんからの最後の贈り物だったのかもしれない。
「夕花、陽太……」
無くしたくない、もう二度と。
ふいにそんな風に思った。
思ってから気が付いた。
私は一体「何」を無くしたくないのだろう。
それは、この言葉に出来ない胸の温かさなのかもしれない。
それは、喪失感、絶望感、虚無感、その全ての中から確かに湧き上がる新たな希望の光なのかもしれない。
もしかしたら、この世界の全てかも。
堪えようのない「何か」が溢れてきて、私たちは年甲斐もなく泣き喚いた。
大人になった男女三人が向かい合って海辺で泣いている様子は一体どれほど滑稽だったろうか。
そうしてこの日、私たち三人は、十年ぶりの再会を果たした。
それがどんな結末を迎えるのかは分からない。
でも、泣きながらも確かに感じたのだ。
もう一度。いや、何度でも。
「また、やり直そうよ。三人で」
涙声で話す陽太の言葉が私たちみんなの思いだった。
友情も、恋愛も、家族愛をも超えたその先に、見えるものは一体何だろう。
海辺に臨むバルコニーで私はいつものように読書を嗜む。
紅茶を一口啜って、ページを捲ったところで、私の名を呼ぶ声がした。
「みなみちゃーん、ご飯出来たよー」
「早くしないと全部食っちまうからなぁ」
私は読んでいた本に栞を挟むと、テーブルの上にそれを置いて座っていた椅子から立ち上がる。
「今、行くわ」
部屋の中に入る前、海風が私を追い越した。
私は振り返って、綺麗な海の景色を垣間見る。
雲一つない快晴な空の下、海はまるでそうあることが当たり前であるかのように、何のためらいもなく煌めいていた。
その煌めきを、私はもう眩しいとは思わないだろう。
もう一度流れてきた海風は、どこか懐かしくて優しい潮の香りがしていた。
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