海辺の町で

高殿アカリ

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 潮の香り、古い木造の家。

 ここが私の今住んでいる家だ。



 お婆ちゃんはまだ起きているだろうか。



 不思議とあの人の顔が見たくなった。

 何を考えているのか、いまいち、よく分からない、あの顔が。



 単なる驕りではあるけれど、十六歳を迎えた今日なら、少しは理解できるのではないか、なんて思っていた。



 ギシギシと廊下を歩いて、居間に向かった。



 蚊取り線香の匂いと風鈴の涼しげな音が夏休みなのだと私に実感させる。

 居間の襖をゆっくり開けると、予想通りそこにはお婆ちゃんがいた。



「お婆ちゃん……ただいま」



 私の言葉にお婆ちゃんが振り向く。

 その顔は今まで見たことがないくらいに歪んでいた。



 私は畏怖を感じてお婆ちゃんに向けて笑いかけようとしていた表情を固まらせた。



 お婆ちゃんが怒っている。

 そう理解するのに一秒もかからなかった。



「……遅いよ。一体何時だと思っているんだい」

「……ごめんなさい」



 私が謝ると、お婆ちゃんは大きく溜息をついて、



「こんなことになるなら、あの時みなみを引き受けるなんて言うんじゃなかったよ。全く、血の繋がらない孫だっていうのに……」



 お婆ちゃんのその言葉に、私は顔を青ざめさせた。



「……お婆ちゃん、それってどういうこと?」



「みなみ、あんた知らなかったのかい? 私とあんたのお母さんは血が繋がっていないんだ。私はお爺さんの後妻でね……」



 気が付いたら走り出していた。

 お婆ちゃんがまだ話し終えていなかったけれど、そんな話を最後まで聞いていたくなかったのかもしれない。



 遠くでお婆ちゃんが「どこ行くんだい」と私の背中に声を投げかけているような気がした。

 ……うん、気がしただけ。
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