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この日から、私を介して、二人は徐々に近づいていった。
私は微笑ましい気持ちでいっぱいだった。
そうして、一学期が終わるころには、読書する私の席に夕花と陽太が喋りにくるという構図ができていた。
もちろん、喋りにくるとは言っても、私は本を片手に二人の話を聞いているだけだったが。
中には、そんな私たちを不審に思うものもいたようだ。
幾度となく、呼び出しを受けては、陽太を夕花にとられて悲しいのではないか、といったようなことを言われた。
夕花に対するやっかみであったことは明白だし、私は陽太に対してそういった感情を持った覚えもなかったので、相手にはしていなかった。
こうして、夏休みが始まった。
都会の中でも蝉はちゃんと煩わしい程に五月蝿く鳴いている。
その喧しさに私はどこか安心しながら、駅の改札で陽太と夕花の二人を待っていた。
夏休みが始まって約一週間が経った。
今日は、いつもの海辺の町を抜け出して、少し遠出をしようということになった。
街に出て、買い物をする、らしい。
正直、人混みも苦手で、ファッションやアクセサリーなどにもあまり興味の持てない私にとっては、大きな書店があることくらいしか楽しみはない。
それでも、こうやってのこのこと外へ出てきたのは、他でもないあの二人とのお出かけだからだろう。
実際、学校帰りに寄り道をすることはあっても、休日に二人と会うのは初めてだった。
夕花は、きっと買い物が好きなのだろう。
現に、この遊びを持ちかけたのも夕花だ。
陽太は、きっと何を買うでもなく、それでも楽しそうに私たちの買い物に付き合ってくれるのだろう。
そんなことを考えていたら、さっきから感じていた都会特有の空気の薄さも、空の濁さも、風通しの悪さも、あまり気にならなくなった。
海辺の町に私の身体は慣れてしまったのかもしれない。
そう思うと、とても不思議な気がして、空を、仰いだ。
あの町よりも少しだけ遠くなった空を。
私は微笑ましい気持ちでいっぱいだった。
そうして、一学期が終わるころには、読書する私の席に夕花と陽太が喋りにくるという構図ができていた。
もちろん、喋りにくるとは言っても、私は本を片手に二人の話を聞いているだけだったが。
中には、そんな私たちを不審に思うものもいたようだ。
幾度となく、呼び出しを受けては、陽太を夕花にとられて悲しいのではないか、といったようなことを言われた。
夕花に対するやっかみであったことは明白だし、私は陽太に対してそういった感情を持った覚えもなかったので、相手にはしていなかった。
こうして、夏休みが始まった。
都会の中でも蝉はちゃんと煩わしい程に五月蝿く鳴いている。
その喧しさに私はどこか安心しながら、駅の改札で陽太と夕花の二人を待っていた。
夏休みが始まって約一週間が経った。
今日は、いつもの海辺の町を抜け出して、少し遠出をしようということになった。
街に出て、買い物をする、らしい。
正直、人混みも苦手で、ファッションやアクセサリーなどにもあまり興味の持てない私にとっては、大きな書店があることくらいしか楽しみはない。
それでも、こうやってのこのこと外へ出てきたのは、他でもないあの二人とのお出かけだからだろう。
実際、学校帰りに寄り道をすることはあっても、休日に二人と会うのは初めてだった。
夕花は、きっと買い物が好きなのだろう。
現に、この遊びを持ちかけたのも夕花だ。
陽太は、きっと何を買うでもなく、それでも楽しそうに私たちの買い物に付き合ってくれるのだろう。
そんなことを考えていたら、さっきから感じていた都会特有の空気の薄さも、空の濁さも、風通しの悪さも、あまり気にならなくなった。
海辺の町に私の身体は慣れてしまったのかもしれない。
そう思うと、とても不思議な気がして、空を、仰いだ。
あの町よりも少しだけ遠くなった空を。
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