海辺の町で

高殿アカリ

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 この日も陽太は私に挨拶をした。グランドから、よく聞こえる声で。



「みなみ! おはよう!」



 この日は夕花も朝早く教室にいて、読書をする私の傍らで何をするでもなく、鼻歌を歌っていた。

 陽太の声に気が付いた夕花は、陽太に手を振り終えた私にこう問いかけた。



「みなみちゃんが返事を返すって珍しいね。あの人は誰?」

「坂本陽太よ。何故だかよく話しかけてくるの。今、夕花が座っている席、彼の席よ」



 私がそう言い終わると同時に、教室の扉が開いた。陽太だ。

 彼は本来なら自分の席である椅子に腰かけている、最近越してきたばっかりの少女を見て、笑いかけた。



「おはよう、えっと、」



 彼女の名が出てこないのであろう彼に、私は教えた。



「桜木夕花よ。昨日からの転校生。陽太、あなた昨日の朝のホームルーム寝ていたのでしょう」



「ははは。さすがみなみだな。よろしく、夕花。俺は坂本陽太。みなみの友人だ」



 彼のこの自己紹介に私は心底驚いた。

 そして、少しだけ嬉しく思った。

 どうやら彼は私の友人だったらしい。



 でも、彼女、夕花は違ったみたいだ。

 夕花は陽太の自己紹介に少し怒ったような顔をして、自分の自己紹介をした。



「私は、桜木夕花。みなみちゃんの一番の友人です、どうぞよろしく」



 そういった夕花は、ふんっ、と肩を怒らせて、陽太から身体を背けた。



 ぽかんとする陽太と目が合い、私はいてもたってもいられなくなり、初めて吹き出した。

 何てひどい顔をしているの、陽太。



 大声で笑う私を見た二人は固まっていて、それがさらに私の笑いを助長させる。



 このとき、私に初めて友人ができた瞬間だった。

 それも二人も。
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