海辺の町で

高殿アカリ

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 私がかつて住んでいた町は、海のそばにあった。

 そして、そこにはいつも優しい光が差し込んでいたように思う。



「おーい、みなみ!」



 初夏、毎朝のように私の名前を呼ぶのは、太陽のようにまぶしい名前をした坂本陽太だ。

 

 両親の海外赴任が決まると同時に、私は海沿いにあるこの町の高校へと進学先を改めた。



 この町には、母方の祖母が住んでいるからだ。

 ほとんど顔さえも分からないほど会っていなかったが、父方の祖父母が他界した今、両親が頼る先はここしかないと踏んだのだ。

 

 そうして今年の四月、私は桜も咲かないようなこの町に引っ越してきた。

 

 入学式とはいっても、ここらの土地で唯一の高校のため、ほとんど中学からの繰上りみたいなもので、余所者は私くらいだった。

 そんな私の隣の席になったのが、坂本陽太である。



 春というのに日に焼けた素肌はまさにこの町の子といったところか。

 もともと人懐っこい性格らしく、読書好きの無口で不愛想な私にもたいした躊躇もなく話しかけてきたのがきっかけだ。



 そのせいかどうかは知らないが、私にとって初めて知り合いよりも深い関係を築けた存在であった。

 友達とまでは呼べないにしても。



 入学して一か月と少しが経った今日この頃も、彼は私に挨拶をする。

 少しくすぐったい日々である。
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