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名前も知らない彼は、私が生まれてこのかた初めて見た瞳をしていた。
真っ直ぐに私を射抜くその瞳には、父や担任が私に向けてくるような苛立ちを含まず、また、クラスメイトが私に向けるような憐れみも一切なく。
私はいつものようににやつくことさえ忘れて、彼の瞳に見入った。
彼はそんな私を気にする風でもなく、
「手伝おうか?」
と、制服の袖口を捲りながら私にそう告げた。
「……妖精さんならね」
長らく言葉を発していなかった私の声は、低くしゃがれていて、まるで邪悪な老魔女のようだった。
私の声が届いたかどうかは分からない。
ただ彼は軽く笑って手伝い始めた。
その様子を横目で見ながら、私はあぁやっぱり妖精だったんだね、なんて思いながら、そのことにどこかほっとしていた。
痛めた身体とその傷の性で発熱していた私は、動きも鈍く、腰も曲がり、本当に老魔女なんじゃないかと自分で自分を疑うほどだった。
発熱した私の脳内では、いつになく穏やかな時間を過ごしていた。
曖昧に揺れる視界の中、老魔女と妖精は言葉の要らない綺麗な世界で数多ある書物を整理していた。
邪悪な魔女もその時ばかりは世界に対して心なしか幾分優しかったように思う。
真っ直ぐに私を射抜くその瞳には、父や担任が私に向けてくるような苛立ちを含まず、また、クラスメイトが私に向けるような憐れみも一切なく。
私はいつものようににやつくことさえ忘れて、彼の瞳に見入った。
彼はそんな私を気にする風でもなく、
「手伝おうか?」
と、制服の袖口を捲りながら私にそう告げた。
「……妖精さんならね」
長らく言葉を発していなかった私の声は、低くしゃがれていて、まるで邪悪な老魔女のようだった。
私の声が届いたかどうかは分からない。
ただ彼は軽く笑って手伝い始めた。
その様子を横目で見ながら、私はあぁやっぱり妖精だったんだね、なんて思いながら、そのことにどこかほっとしていた。
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曖昧に揺れる視界の中、老魔女と妖精は言葉の要らない綺麗な世界で数多ある書物を整理していた。
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