2 / 7
第1話 七月二十日 放課後
しおりを挟む
教室の窓から西日が差し込んでいる。
橙色のその光は、教室の中にくっきりとこの世界の影を作り出している。
その一つに、私の影もあった。
椅子から伸びる長い私の分身。
黒い、もう一人の私。
窓の向こうから、運動部員たちの練習を始める声が聞こえてくる。
いつもと変わらない放課後。
夏の匂いが私の鼻先を翳めて、私はふっと顔を上げた。
教室と外を繋げる窓から見える、良く晴れた夕空が眩しかった。
私は一息つくと、書き終えた日誌の表紙を閉じて、教室を見渡した。
持ち主の帰った机と椅子が三十六個。
私以外の生徒は今この教室にはいない。
そのことを確認して、私は机の横に提げているスクールバッグから一冊の本を取り出す。
少し痛んだように見える茶色の表紙がそれをアンティーク調に彩っている。
おとぎ話にでも登場するかのようなその本の中身は、実は何も書かれていないただの白紙のノートだったりする。
少しおしゃれな雑貨屋さん(リアスが喜びそうな雰囲気のあるお店だった)で先日見付けたものだ。
今にも素敵な物語が始まりそうな装丁をしたそれの表紙をつるりと撫ぜて、私は一ページ目を開いた。
先ほどまで日誌の上を行き来していたシャープペンシルを持ち直すと、私はそこに一つの文章を書く。
この一文から始まる物語が、素敵なものになりますように。
そんな願いを込めて。
句読点を書いて、ノートを持ち上げる。
書き終えた最初の一文を見て、満足げに頷く。
今日の西日はこの日の為に存在しているのではないだろうか。
そう思えるほどに、私の文字は淡い夕陽の世界で、一際綺麗に色づいていた。
本のようなそのノートを閉じて、私は帰宅準備をする。せかせか。せかせか。
先ほどまで丁寧に一文字一文字を綴っていたことがまるで偽りであるかのように、私は急いで教室を飛び出した。せかせか。せかせか。
日誌を抱えた胸で思う。
今日は寄るところがある。急がなくては。
そして、先ほど書いた始まりの言葉を思い返して、一人、口角を持ち上げた。
遠くから、運動部員の掛け声が聞こえていた。
橙色のその光は、教室の中にくっきりとこの世界の影を作り出している。
その一つに、私の影もあった。
椅子から伸びる長い私の分身。
黒い、もう一人の私。
窓の向こうから、運動部員たちの練習を始める声が聞こえてくる。
いつもと変わらない放課後。
夏の匂いが私の鼻先を翳めて、私はふっと顔を上げた。
教室と外を繋げる窓から見える、良く晴れた夕空が眩しかった。
私は一息つくと、書き終えた日誌の表紙を閉じて、教室を見渡した。
持ち主の帰った机と椅子が三十六個。
私以外の生徒は今この教室にはいない。
そのことを確認して、私は机の横に提げているスクールバッグから一冊の本を取り出す。
少し痛んだように見える茶色の表紙がそれをアンティーク調に彩っている。
おとぎ話にでも登場するかのようなその本の中身は、実は何も書かれていないただの白紙のノートだったりする。
少しおしゃれな雑貨屋さん(リアスが喜びそうな雰囲気のあるお店だった)で先日見付けたものだ。
今にも素敵な物語が始まりそうな装丁をしたそれの表紙をつるりと撫ぜて、私は一ページ目を開いた。
先ほどまで日誌の上を行き来していたシャープペンシルを持ち直すと、私はそこに一つの文章を書く。
この一文から始まる物語が、素敵なものになりますように。
そんな願いを込めて。
句読点を書いて、ノートを持ち上げる。
書き終えた最初の一文を見て、満足げに頷く。
今日の西日はこの日の為に存在しているのではないだろうか。
そう思えるほどに、私の文字は淡い夕陽の世界で、一際綺麗に色づいていた。
本のようなそのノートを閉じて、私は帰宅準備をする。せかせか。せかせか。
先ほどまで丁寧に一文字一文字を綴っていたことがまるで偽りであるかのように、私は急いで教室を飛び出した。せかせか。せかせか。
日誌を抱えた胸で思う。
今日は寄るところがある。急がなくては。
そして、先ほど書いた始まりの言葉を思い返して、一人、口角を持ち上げた。
遠くから、運動部員の掛け声が聞こえていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
君の中で世界は廻る
便葉
ライト文芸
26歳の誕生日、
二年つき合った彼にフラれた
フラれても仕方がないのかも
だって、彼は私の勤める病院の 二代目ドクターだから…
そんな私は田舎に帰ることに決めた
私の田舎は人口千人足らずの小さな離れ小島
唯一、島に一つある病院が存続の危機らしい
看護師として、 10年ぶりに島に帰ることに決めた
流人を忘れるために、 そして、弱い自分を変えるため……
田中医院に勤め出して三か月が過ぎた頃 思いがけず、アイツがやって来た
「島の皆さん、こんにちは~
東京の方からしばらく この病院を手伝いにきた池山流人です。
よろしくお願いしま~す」
は??? どういうこと???
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる