その女、女狐につき。2

高殿アカリ

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愛ってなんだpart.2

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 けれど、私の静止なんて気にせず、市川は私の唇を奪おうとする。

 私は彼の唇に手を当てて、彼の瞳を見据えながら言った。



「市川、私、満吉のことを思い出したのよ」



「……そのことと、僕たちのことに何か関係があるの?」



 そう答えた彼の瞳は、どこか不安そうに瞬いていた。

 関係ないと言って、とまるで言われているみたいな気がした。



 思わず息を呑んだ私の手を払って、そのまま彼は私の唇を奪った。

 長く甘く続いた接吻が終わり、私は荒れた呼吸を整えた。



 それから、未だに悲しそうな顔をしている市川の頬を手で撫ぜて、私は一言告げたのだ。



「そうね、関係ないわ」



 そして、そのまま私は市川に身を委ねた。



 とろけるような甘美な時間だった。

 市川の手つきはひたすら優しくて。

 私はどこまでも恥ずかしかった。



 だけど、それでも私の心は市川だけのものにはならなかったのかもしれない。



 満吉の影が脳裏にちらついて。

 和樹の悲しそうな顔もちらついて。

 満吉との優しく温かな記憶も掘り起こされて。



 私は市川の向こう側に何かを見ていたのかな。



 市川から意識が離れる、その度に、市川は私に噛みついて、私をこの場に引き戻した。

 どこか苦しそうな表情の彼に私まで悲しくなってきて。



 こんなの、どこが幸せなんだろう。

 まるで傷を舐め合うみたいな、行為なんて。



 私たちは初めて最後まで行った。



 耽美な時間が終わり、情事後、私は彼の腕の中で静かに問うた。



「ねぇ、愛ってなんだと思う?」



 私の言葉に市川は何も答えなかった。
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