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5.女狐の過去
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夢乃が黒閻の寵愛姫候補になったと知った日の放課後。
私は今日も今日とて、満吉の部屋にいる。
もちろん、いつものように受験勉強を見てもらうためで。
そこに甘い空気なんかは微塵もなくて。
「おい、ここまた間違えてるぞ」
「え、あ、ほんとだ」
彼のさらさらな黒髪とか。
長くて綺麗な指先とか。
「……おい、愛美」
「うん?」
「何か嫌なことでもあったのか?」
こんな風に、私のことを気遣ってくれるところとか。
「どうして?」
「いや、何か、元気がないように見えたから」
ちょっとだけ心配そうに下がる眉毛とか。
どこまでも誰にでも優しいところとか。
「満吉は本当に心配性だよね。私は元気だよ?」
そんな、満吉の好きなところが全部全部、夢乃のものになっちゃうのかな。
あぁ、駄目ね。
今、満吉の顔を見たら泣いちゃう。
こんなヒロインぶりっこなんてしたくないのに。
視界が潤み、涙の雫が数学のテキストに数滴落ちる。
ぱたぱたぱたって感じで。
私の様子に気が付いた満吉が口を開く。
「……嘘、吐くなよ。何があったんだ?」
だから、私は顔を上げてやった。
涙は溢れるけど、もう気にしない。
私は恐怖を押し込んで、彼に一つの質問をすることにした。
答えは分かり切っているけれど、彼の口からそれを聞きたかったから。
私は今日も今日とて、満吉の部屋にいる。
もちろん、いつものように受験勉強を見てもらうためで。
そこに甘い空気なんかは微塵もなくて。
「おい、ここまた間違えてるぞ」
「え、あ、ほんとだ」
彼のさらさらな黒髪とか。
長くて綺麗な指先とか。
「……おい、愛美」
「うん?」
「何か嫌なことでもあったのか?」
こんな風に、私のことを気遣ってくれるところとか。
「どうして?」
「いや、何か、元気がないように見えたから」
ちょっとだけ心配そうに下がる眉毛とか。
どこまでも誰にでも優しいところとか。
「満吉は本当に心配性だよね。私は元気だよ?」
そんな、満吉の好きなところが全部全部、夢乃のものになっちゃうのかな。
あぁ、駄目ね。
今、満吉の顔を見たら泣いちゃう。
こんなヒロインぶりっこなんてしたくないのに。
視界が潤み、涙の雫が数学のテキストに数滴落ちる。
ぱたぱたぱたって感じで。
私の様子に気が付いた満吉が口を開く。
「……嘘、吐くなよ。何があったんだ?」
だから、私は顔を上げてやった。
涙は溢れるけど、もう気にしない。
私は恐怖を押し込んで、彼に一つの質問をすることにした。
答えは分かり切っているけれど、彼の口からそれを聞きたかったから。
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