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4.ボーイズたちは見守るばかり
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『ここで市川が出てきたらすべてが終わってしまうわ。あなたはあの子の覚悟も台無しにするつもりなの?』
それから、俺は自分に言い聞かせるようにこう言った。
「差出人は、里奈さんだった……」
市川さんと愛美さんが同棲していることは白豹のトップシークレットだ。
もしも俺が愛美さんの様子を市川さんに伝えてしまえば、静かに怒り狂った彼がこの場に乗り込んでくることは明白だった。
その行為の何が問題なのかは分からない。
なぜなら愛美さんの考えていることのすべてを俺は知らないからだ。
いいや、彼女が教えてくれないからだ。
それがいつも歯痒くて、悲しくて、辛かった。
「俺はいつだって愛美さんの力になりたかったのにな」
自嘲した笑みを浮かべ、俺は夢乃の眠る寝室へと戻った。
夢乃の横にもう一度潜り込むと、安心したかのように彼女が微笑んだ気がした。
単に楽しい夢を見ているだけかもしれないが。
俺にその身を委ね、まるで甘えたように擦り寄ってくる彼女にどうしても愛美さんを重ねてしまう。
もしも、仮にも、愛美さんがこんな風に俺を頼ってきてくれたのなら……。
いや、そんなのはありもしない空想だ。
それにもう遅い。
俺はあの時、夢乃の方を選んでしまったのだから。
後悔と罪の意識に苛まれて、俺は腕の中の夢乃に縋り付く思いだった。
あぁ、でも。
もしも叶うならば、愛美さんの様子が知りたい。
彼女は今夜、どんな夢を見ているのだろうか。
それが悪夢であることは容易に想像出来てしまう。
ならば、その悪夢はなるべく優しいものであって欲しい。
俺はそんなことを願いながら眠りに着いた。
夢乃を腕に抱き寄せたままで。
それから、俺は自分に言い聞かせるようにこう言った。
「差出人は、里奈さんだった……」
市川さんと愛美さんが同棲していることは白豹のトップシークレットだ。
もしも俺が愛美さんの様子を市川さんに伝えてしまえば、静かに怒り狂った彼がこの場に乗り込んでくることは明白だった。
その行為の何が問題なのかは分からない。
なぜなら愛美さんの考えていることのすべてを俺は知らないからだ。
いいや、彼女が教えてくれないからだ。
それがいつも歯痒くて、悲しくて、辛かった。
「俺はいつだって愛美さんの力になりたかったのにな」
自嘲した笑みを浮かべ、俺は夢乃の眠る寝室へと戻った。
夢乃の横にもう一度潜り込むと、安心したかのように彼女が微笑んだ気がした。
単に楽しい夢を見ているだけかもしれないが。
俺にその身を委ね、まるで甘えたように擦り寄ってくる彼女にどうしても愛美さんを重ねてしまう。
もしも、仮にも、愛美さんがこんな風に俺を頼ってきてくれたのなら……。
いや、そんなのはありもしない空想だ。
それにもう遅い。
俺はあの時、夢乃の方を選んでしまったのだから。
後悔と罪の意識に苛まれて、俺は腕の中の夢乃に縋り付く思いだった。
あぁ、でも。
もしも叶うならば、愛美さんの様子が知りたい。
彼女は今夜、どんな夢を見ているのだろうか。
それが悪夢であることは容易に想像出来てしまう。
ならば、その悪夢はなるべく優しいものであって欲しい。
俺はそんなことを願いながら眠りに着いた。
夢乃を腕に抱き寄せたままで。
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