その女、女狐につき。2

4.ボーイズたちは見守るばかり

7

　夢乃の瞳の奥に眠る何かに本能的に気付いてしまったのか。

　俺は一瞬詰まった後、彼女の質問に答えた。



「あ、あぁ。どうやら芳しくはないようだ。詳しく聞いたわけではないが、酷く錯乱しているらしい」



　俺の答えに夢乃は、眉を下げて悲しそうな表情になる。

　それから、躊躇いながらも口を開いた。



「……ねぇ、愛美ちゃんは戻ってくる？」



　どこか怖がりながら聞いてきた夢乃は、まるで天敵に襲われる前の小動物のようで。

　俺は思わず彼女のその華奢な身体を抱き締めた。



　そして、俺自身を納得させるようにこう言った。



「いや、当分は黒閻で愛美を預かってもらう。前みたいに敵対しているわけでもないし、酷い扱いは受けないだろう。それに、あっちでは既に医者も用意してくれているようだし、愛美にとっても良い環境なんだと思う」



「……私も、『追い出される』の？」



　夢乃の言葉に俺はぎくりと肩を揺らした。



　彼女は俺の言い訳の本質を貫いてきたのだ。

　そう、俺は体の良い、舌触りの良い言葉を並べて、たった今宣言したのだ。



　愛美を追い出した、と。



　俺は少しだけ身体を夢乃から離し、彼女の表情を覗き込んだ。

　涙の膜を張った彼女の瞳は、やはり何を考えているのか分からない。



　俺はそれでも、彼女の瞳を見て、



「いや、夢乃はここでゆっくりすると良いよ。まだ色々と心の整理もついていないだろうし。……夢乃は、大切な仲間だから」



　俺の言葉を聞いた瞬間、夢乃の喉が鳴った。



　ごくり、と。



　それから、震える声で彼女は言った。



「それって、夢乃が寵愛姫になるってこと……？」



　俺は静かに頷いた。



　そう、これで良いんだ。

　反発する心を押し込めて、俺は自分にそう言い聞かせた。