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3.夢乃の女狐劇場
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今朝、何者かに攫われたところまでは覚えている。
目を覚ました時に思ったのはそんなことだった。
ずきずきと痛む頭を抱えて私は辺りを見渡した。
だだっ広い空間にぽつりと存在する私。
どうやらどこかの倉庫にでも連れてこられたらしい。
埃臭さが鼻につくから、今はもう使われていない倉庫なのだろう。
ゆっくりと身体を起こして、行動を開始しようとしたところで、男の声が上から聞こえてきた。
「愛美ちゃーん、逃げようなんて思わない方が良いよ」
私は驚いて動きを止める。
それと同時に、聞こえてきただみ声にどこか嫌な予感がした。
知らないはずなのに、私は知っている。
この声の主を、知っている。
そう感じた途端、私の呼吸が早くなる。
激しい頭痛と悪寒が私を襲い、私は何も考えられなくなった。
まるで誰かに記憶を覗き込まれているみたいで、気持ちが悪かった。
カンカンカンカン。
倉庫の階段を降りてくる音が耳に刺さる。
それもどうやら一人じゃないようね。
冷や汗?
脂汗?
とにかく尋常じゃないくらいの汗が額を流れ落ちる。
朦朧とする意識の中、里奈と一花の心配そうな顔が脳裏に浮かんできた。
それからフウガたちの顔も。
市川の家で見つけた加賀美満吉と私の写真。
夢乃は可愛らしい笑顔を意地悪く歪ませている。
それから――――。
「……市川……」
なぜか最後に憎たらしいはずの彼の顔を思い浮かべていた。
今朝、何者かに攫われたところまでは覚えている。
目を覚ました時に思ったのはそんなことだった。
ずきずきと痛む頭を抱えて私は辺りを見渡した。
だだっ広い空間にぽつりと存在する私。
どうやらどこかの倉庫にでも連れてこられたらしい。
埃臭さが鼻につくから、今はもう使われていない倉庫なのだろう。
ゆっくりと身体を起こして、行動を開始しようとしたところで、男の声が上から聞こえてきた。
「愛美ちゃーん、逃げようなんて思わない方が良いよ」
私は驚いて動きを止める。
それと同時に、聞こえてきただみ声にどこか嫌な予感がした。
知らないはずなのに、私は知っている。
この声の主を、知っている。
そう感じた途端、私の呼吸が早くなる。
激しい頭痛と悪寒が私を襲い、私は何も考えられなくなった。
まるで誰かに記憶を覗き込まれているみたいで、気持ちが悪かった。
カンカンカンカン。
倉庫の階段を降りてくる音が耳に刺さる。
それもどうやら一人じゃないようね。
冷や汗?
脂汗?
とにかく尋常じゃないくらいの汗が額を流れ落ちる。
朦朧とする意識の中、里奈と一花の心配そうな顔が脳裏に浮かんできた。
それからフウガたちの顔も。
市川の家で見つけた加賀美満吉と私の写真。
夢乃は可愛らしい笑顔を意地悪く歪ませている。
それから――――。
「……市川……」
なぜか最後に憎たらしいはずの彼の顔を思い浮かべていた。
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