その女、女狐につき。2

3.夢乃の女狐劇場

６

　すると愛美ちゃんは、悲しそうな、悔しそうな、そんな顔をして何も言うことなく、私たちに背を向けた。



　そして、そのまま走って白豹の溜まり場から逃げたのだ。



　彼女は拳を握り締めていた。

　唇も噛み締めていた。

　それから、瞳には涙をいっぱいに溜めていた。



　……あは、なんて可愛い姿なんだろう？

　二年前も同じような顔をしてたよね。



　またその表情が見られるなんて、思ってもみなかったなぁ。

　愛美ちゃんってば、本当に記憶喪失なの？



　なぁんて思っていると。

　隣で和樹が立ち上がろうとしている気配がした。



　だけど、私は逃がさない。

　そんな甘いことするわけないじゃん？



　愛美ちゃんを追おうとしていた彼の腕を弱弱しげに掴む。

　彼ははっとして私の方を見る。



　私は俯いて、涙声で、



「和樹、行かないで……」



　可憐な少女にそう言われた男の子はどうすると思う？



　和樹は脱力したように、もう一度私の隣に座った。

　それから私を優しく抱きしめて、背中をとんとんと叩いてあやす。



　私は嗚咽を漏らしながら、彼の匂いに包まれた。



「ふぇ……ごめんねぇ。……でも、和樹は行っちゃやだよ……」



　ね？

　これが正解。



　そして、これにて下処理は終了。

　あとは、下処理をした素材たちをちゃちゃっと炒めるだけ！



　てことは、そろそろあいつらに連絡取らなきゃなぁ。



　俄然、楽しみになってきちゃった！