その女、女狐につき。2

高殿アカリ

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1.始まりの合図

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 その見ず知らずの人物は、少女だった。



 平均よりも少しだけ低い身長。

 ベリーショートの黒髪。

 新品同然の制服。



 彼女は笑って口を開いた。



「私、中川伊織と言います! 新入生です!!」



 快活そうなその少女に私たちが思わず構えてしまったのは、彼女の笑顔が何かしら知っているようなそんな不穏な笑顔だったからだろうか。



 警戒を滲んだ声で、里奈が問うた。



「どうやってここに?」



 その問いに彼女は何の詫びれもなく、あっけらかんと言ってのけた。



「四階から壁伝いに登ってきたんです」



「……随分と、運動神経が良いようなのね」



 一花の言葉に照れたように笑う、伊織と名乗った少女。

 果たして彼女は無垢か、無邪気か。



 それとも――――?



 訝しげに伊織を見つめる私たち三人。

 沈黙だけが屋上を支配していた。



 その沈黙に耐えかねたように、伊織が口を開いた。



「えっと、生徒会長の一花先輩に、副会長の愛美先輩、ですよね?」



 こてんと首を傾げるその様子に特に不審な点はない。



「えぇ、そうよ」



 私の返事に彼女はぱぁっと表情を明るくさせて、



「私を生徒会に入れてください!!」



 と頭を下げた。



 私たち三人は顔を見合わせ、それから目の前にいる少女に視線を向けた。



 私は思考を巡らせる。



 やるべきことは何か。

 一番知りたいことは何か。



 そして、そのためには何から始めるべきなのか。

 ……そう、例えば、伊織は使える素材なのか、とか。



 ひとしきり考えた後、私は彼女に向かって口を開いた。



 この伊織という少女の登場こそ、まさしく新しい始まりの合図だった。
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